■住まいの話題[21]:日本の風景はどこへ行った?
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プロヴァンス風がお好みですか?
外国を旅行すると、歴史のある街並みや美しい民家が建ち並ぶ風景に感動することが多い。私の事務所に住まいづくりの相談に来られる方の中には、「南フランス風の家がほしいのですが」といったご希望をくださる方が時々いらっしゃる。日本人がこの日本の中に家をつくるのに、どうして南フランス風の家がほしいということになってしまうのか。
西洋への憧れはいつの時代も
鎖国時代の影響なのか・・・。それとも島国根性などとでも言うべきものか。建築の歴史を見てみても、明治維新と同時に、都市には洋風建築の波が押し寄せた。国や財閥は、こぞって西洋から建築技師を呼び寄せ、立派な洋館を造らせた。デザインとしては、相当怪しい洋風建築もあったようだが、全く新しい西洋のものへの憧れが、都市の風景を一変させてしまった。
「無国籍風規格化住宅」が日本の風景を埋め尽くす?
戦後の住宅産業の発展はめざましいものがある。経済性優先の原理に従い、画一的なものをより低コストで量産することが是とされてきた。バブルの泡に包まれて、ものごとの価値観が狂ってしまった時代もあった。「無国籍風規格化住宅」とでもいうべき、小綺麗なメーカー住宅が、歴史あるものに替わってこの国の風景を埋めていく。「住宅展示場」なるものがあるのも、この日本くらいのものではないか。みんなで同じような家に住むというのは、農耕民族の証なのだろうか。
集落の風景
時代の流れといえば仕方がないのかもしれない。でも、昔から、都市にも農村にも、漁村にも山村にも、人々が暮らす美しい風景というものがあった。それぞれに美しい造形の民家が建ち並ぶ「集落」を形成していた。その土地の地形、気候風土、産業、経済などによって、さまざまな特色を持っていて、それが個性ある集落の風景をつくりだしていたのだ。
山形県東田川郡朝日村の集落
秋田県本荘市折林の集落
昔の人の造形力
もう十数年前になるが、東北地方を旅した時のこと。天童から酒田へ向かう途中、ある山村ですばらしい風景に出会った。峠越えの途中、山の斜面に堂々と、かつ品格を持って建つ美しい民家群。背景となる山、周囲の耕作地、納屋、竹林など、その風景を構成する全ての要素がバランスよく収まっている。いわゆる「絵になる」という表現がピッタリだ。この民家は、兜づくり多層民家といって、大きいのは内部が4層にもなっている。屋根の中にも部屋があるから、窓を付けたらこういうデザインになったということだろう。なんとも格好が良い。残念ながら、今は恐らくこの風景もかなり変わってしまっているのだろう。しかし、出張や旅行の足をちょっとだけのばせば、まだまだこんな風景に出会うことができるかもしれない。
海と向かい合う集落
その旅の途中で、もう一つの集落を訪ねた。酒田から日本海沿いを北上した、本荘市の北の海辺にある、折林という集落だ。昔は魚が来ると、畑仕事をやめて部落総出で舟を漕ぎ出したという。そのためか多くの家は、玄関が海の方を向いている。海からの強い潮風から家を守るため、海岸沿いには伐採した細い木々を丁寧に1列に高く立ち並べた囲い柵が連続してつくられていて、迫力ある風景をつくっている。ただ、その囲い柵の足元にはきれいに草花が植えられ、厳しい自然と対峙する中でも、そこに暮らす人々の豊かな心を感じ取ることができたのを憶えている。
「日本遺産」としての風景を残さなければ
1995年12月に、白川郷・五箇山の合掌造り集落がユネスコの「世界遺産」に登録された。国の文化財保護政策が貧しい中、民家群を集落としてユネスコが認定したのは、すばらしい出来事だ。木造の古い建物や景観は、所有者個人の意志や力だけではとても維持していくことはできない。こうしているうちにも朽ち果て、静かに消えてゆく。日本人の心の故郷が、一つ、またひとつと消滅していくのだ。消えてしまったら二度とよみがえることのできない「日本遺産」としての風景に、私たち日本人一人ひとりが、もっと心を向けてみてはどうだろうか。そして自分の住まいをつくる時には、各々が風景というものを意識して、そのデザインを考えたいものだ。
住まいの話題[21]執筆者
■青井 俊季(あおい としき)/青井俊季建築設計事務所

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