■住まいの話題[30]:風土と文化が家を創る:秩父路より
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札所巡り

鳥がつついたのであろうか、アケビの実の厚い皮だけが、点々と細い山道で落ち葉にまみれている。泉田のバス停から三十三番札所の菊水寺を巡り、赤平川を渡り、みずぬきより山道に入り、時々スポーツドリンクで水分を補給しながら立て札峠を目指し、ひたすら登っていく。呼吸を整えながら、周りの景色を見る余裕もなく、ただただ急な山道の足がかりを見つめながら進む。10月も下旬となると秩父路はじっとしていると肌寒いはずが、薄着なのに汗だくである。峠を越え、破風山を過ぎると道は下りとなる。周りの山肌より集まった水を見ながら谷を下りていくと、水量は増してくる。途中、その清流で顔を洗い一息つく。峠を越えて、この谷に着くと、今年もまたほっとする。さらに暫く下ると、秩父最後の札所三十四番の水潜寺に至る。

ある恩人から3年ほど前、休日の秩父札所巡りを誘われた。それ自体にはあまり興味はなかったが、その人からの誘いがうれしくて、ハイキング感覚で同行したのが札所巡りのはじまりであった。そしてこの10月27日で、三十三番と三十四番を廻り、全三十四ある札所を3回巡り終えた。特に、午年である今年は十二年に一度の総御開帳のため、例年より華やいだ印象深いものとなった。

自然と出会う

私が巡る行程は、一番札所から三十四番札所までのおよそ100kmを5日に分けてただひたすら歩くもので、誘ってくださった方が1人で8年程前から秩父をくまなく歩き、道に迷いながら、市街・野山を問わず、全て歩き通した結果の賜物である。

札所十六番:西光寺
秩父路の民家

遍路の取り組み方は人それぞれで、いろいろあってよいと思う。私の場合は、ある夜、取っておきのウイスキーをちびちびやるように、春から秋まで約1年がかりで巡るこの行程が好きである。雪の中から顔だけ覗かせ温和に微笑まれる金昌寺の石地蔵(四番)に思わず足を止めたこと、定林寺(十七番)の桜の花がはらはら舞う中でとった昼食のこと、炎天下を長線院(二十九番)より法雲寺(三十番)へ向かう際の長く暑い道のこと、観音院(三十一番)を目前に不気味な雷雲と激しい雨に追いつかれバス停前の酒屋で諦めのワンカップ酒を煽ったことなど、楽しくしかもやさしい秩父の自然が満喫でき、心に被った日常の埃を落とすことができるからである。

町並みになじむ家づくり

秩父路では、束ねた柊に鰯の頭を刺した節分の門口飾り、都会では見ることのできないとても大きな五月の鯉幟、白足袋・半被・鉢巻姿で山車を引く子供たちなど、人々の営みに季節感や土地柄が表現されている。

しかし残念なこともある。とある住宅街に足を踏み入れたときのこと。そこには、秩父の風土や文化を考慮した形跡がまったくない都市型住宅群が形成されていたのである。住宅を構成している材料が工場生産品を多用しているのと、工法が画一化しているために、地域性がまったくと言っていいほど失われているのである。工場生産品を否定するつもりはない。ただ、家づくりにおいては、品質・精度・耐久性・性能・安全性・工期・予算などと共に、地域とどう係わるかを、材料メーカーや作り手やオーナーが考えていくべきである。

建物は工事に着手した時から、良くも悪くも周囲と関わって存在する。独自のデザインを施し、良質の内部空間を連想させ、町並みに違和感なく、凛とした建物に出会うと、嬉しくもあり、思わず足を止めてしまうのは私だけであろうか。

秩父路を大切に歩くことで、小さな祠や庚申塚などが点在しているのを再確認でき、謙虚に無病息災を願い、季節を愛でながら暮らす人々を想像できるのである。この歩く行為を通して改めて、そのような文化をも住宅設計に盛り込み、次の世代に渡したいと思うのである。

住まいの話題[30]執筆者
■深谷 あき芳(ふかや あきよし)/深谷章芳建築設計事務所

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