■住まいの話題[55]:ある住宅設計のメモ
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「すまい」はひとがくつろぎ、安らぎが得られるべき場所です。それはさまざまな意味で、安全で快適であり、安心して過ごせる場所でなければなりません。

このことについて、以前手がけたある住宅の設計時に書きとめたメモを基に、「すまい」の設計に際して私が取り組んでいる姿勢の一端を、簡単にまとめてみました。

ヒューマンスケール

「すまい」は時間的にも空間的にも、ヒューマンスケールであるべきだと考えています。人間のスケールを超えた情報氾濫と、速い時間の流れの現代社会にあっては、人間の持つ本来の時間の流れを取り戻すことができる空間が「すまい」には必要です。

そしてそこで用いられる素材もまた、ヒューマンスケールに合ったものであるべきだと考えています。足に触れ、手で触れ、目で見、においを嗅ぐという行為を通して、ひとが日常的に接するものであることを意識した上で選択されなければなりません。特に自然から得られる素材である木材・石・紙・土・布・金属などを大切にしたいものです。

環境

「すまい」は周囲の環境(社会環境・自然環境など)と強く関わりながら存在しています。その場所、その人に固有の文脈を読みとって、そこから環境との関わり方を見つけだすことが大切です。

外に対して守ると同時に外に開いているかたち、つまり、内部と外部の間の中間的な領域にはさまざまな可能性があります。例えば、鉄筋コンクリート住宅のフレームの内側にテラスとバルコニーを内包して、内外の中間領域を創ったりします。

環境に関しては、通風・採光・汚染物質など室内の環境ももちろん基本的な要素として「すまい」を考える時の最重要項目です。大きな空間の風通しをよくするために居間などの天井に勾配をつけ、しかも風抜き用の窓を設けるといったことは、そうした例の一つです。

中間領域のある家
勾配天井と風抜き窓のある居間
継続と変化

住み手のライフサイクルに応じて「すまい」は変化します。その変化に柔軟に対応することができる、しかけ・構造(柔軟なインフィル)を配慮することが必要です。一方で、世代にわたって継続・維持が可能な建物の骨格(高耐久・長寿命のスケルトン)を作ることも求められています。

継続と変化について考える際は、それを支える建築技術も重要です。新しい優れた技術に注目することも大切ですが、これまで伝承されてきた技術にも目を向ける必要があります。日本には、大工・左官・建具など伝統的な優れた建築技術がたくさんあるので、こうした技術を絶やさず伝えていくことも求められています。

豊かな空間の創出

これらのことを踏まえながら、さまざまな空間のボリューム・プロポーション・しつらえを意識して一つの建築として総合し、豊かで変化に富む空間を創り出することを常に目指しています。

住み手のアイディンティティが表現され、記憶に残り、次の世代へ受け継がれる「すまい」を実現するためには、住み手・設計者・施工者など「すまい」に関わる人々との信頼関係を築き、お互いの意思疎通を図るコミュニケーションが求められると同時に、それぞれの深い「思い入れ」が不可欠であると思っています。

住まいの話題[55]執筆者
■井上 信(いのうえ まこと)/ (有)井上建築研究所

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