■住まいの話題[58]:世界にひとつだけの家
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自分らしさと協調

江戸時代、八つあん、熊さんは8畳足らずの棟割長屋で結構自分らしく、しかも他人と協調しながら生活していました。貧しくてもそういう生活ができたのは、しきたりや礼儀、道徳という社会的なルールが決まっていたためでしょう。

平均的に誰もが豊かで、個性が認められ、その代わりしきたりや礼儀、道徳はあまり重要でなくなった現代では、自分らしく、しかも他人と協調して生きることが難しくなっています。どちらかを捨てて生きれば楽なのかといえば、それでは満足できないのが人間のようです。

家に始まる
八つあん、熊さんと長屋生活が切り離せないように、本来人間の生き方と生活環境とは切り離せないものです。自分らしさと協調を両立させるためにも、住まいのありかたが重要になってきます。
ブランド志向の家造り

しかし、家を手に入れることが大事業というこの国では思いどおりの家造りなど到底不可能に思えます。多額の出費にただでさえ不安を抱える建てぬしにとって、出来たものを前もって見ることができて、何かあっても責任を取ってくれそうな、大会社のブランド住宅に目がいってしまうのは無理のないことでしょう。

しかしその結果、個人の生き方を反映すべき住まいは「商品」に形を変え、経済的な価値判断が優先されて、画一的な住まいと統一性のない町並みを生み出しています。

個性的な住まいの例:平面図
個性的な住まいの例:断面透視図
もういちど自分らしさと協調

協調が先か自分らしさが先かといえば、自分らしさあっての協調でしょう。

現代社会は一方で個人の自由といいながら、一方では個人を拘束するという矛盾を抱えています。一見自由に見える若者の行動も、確かな価値観や確かな自分を持てないために、はやりの風潮に安易にすがっているにすぎないように見えます。

町にあふれる建売住宅も、マンションと呼ばれるコンクリートの塊も多様な価値観が叫ばれる世の中にしては、あきれるほど魅力のない町並みをつくりだしています。

世界にひとつだけの家

住まいはそれが出来上がってしまうと個人の自由を超えて、地域環境の一部にもなります。この点では個人の自由にも一定の歯止めが必要で、周囲との協調が必要です。

しかし生活のもっとも基礎になる住まいの形が、不動産会社や建設会社の経済的な価値だけで決められていくとすれば、そこに住む家族がそれ以上の価値をめざすことは難しいでしょう。

住まいには自分らしさが表現されるべきです。そのためには自分らしさについてはっきりした自覚が必要です。住まいを造るということは自分と家族を造ることにもつながります。一人一人の人間に個性があるように、家族という個性を持った集団のための入れ物である住まいにも個性が必要です。

全ての家族に必要なのは、ほかのどこにもない「世界にひとつだけの我が家」なのです。

住まいの話題[58]執筆者
■伊藤 眞一(いとう しんいち)/ (株)建築設計事務所オズ

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