■住まいの話題[84]:ヤドカリを見習う
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ヤドカリ

家(殻)付きの生物といえば、身近なものではカタツムリ。しかし、ユニークな形態と行動で、なんと言っても、一番はヤドカリ。共に、殻を背負って移動するところが印象的。ヤドカリは貝殻だけではなく、入れるものなら何でも試すみたいだが、基本は巻貝の貝殻。巻貝はほとんどが右巻きのため、8割のヤドカリは胴体が右に曲がっているそうだ。

ヤドカリとカタツムリ、借り物と自家製ということで家の取得方法は違うが、共通する点がある。体の大きさに合わせ自分の家を調達していることだ。

振り返って、人間社会の場合、どこまで、個人のニーズに合わせた家を持っているのだろうか。

家族構成と家の変遷

独立した成人は、個人差はあるが、一人暮らしに始まって、同棲、新婚時代の二人暮し。子供が二人の四人家族。片親同居で5人家族。子供たちが独立した後は、再び、熟年の二人暮し。と平均的な家族構成は変化していく。

ところで、住処(すみか)としての家の変遷は、1Kから始まって、2K、2LDKを何回か経て、家を何軒も立てる建築家のスポンサーのような奇特な人は例外として、働き盛りに購入したマンションまたは一軒家の3LDKか4LDKで打ち止め。家族構成はその後も更に変化し、家族の要望は留まるところ無し。

家は、ある段階で達成感とともに変化なし。身軽なときは結構引越しを繰り返した人でも、人生一度の家なのに、取得した段階から、住処にあわせた住み方をしていませんか。確かに購入時には十分検討したとしても、マンションや建売では、選択肢もほとんど無し。

たとえ、建築家と十分打合せを行ったオーダーメイドの家ですら、時が経てば、家族の要望とは大違い。君子は豹変するもの、男子三日会わざれば刮目して待つべし。三日もすれば考え方は変わり、無理やり家に合わせた住み方をしている場合が多いのではないでしょうか。

ヤドカリのつぶやき
カスタマイズの薦め

今一度、ヤドカリを見てみましょう。ヤドカリは、住み心地が悪ければ何度でも家を取り替える。周りに空き家が無ければ、住み心地のよさそうな家を背負ったヤドカリを探し、殻を何度も相手の殻にぶつける。ぶつけられたヤドカリは我慢できなくなると殻から這い出してくる。そこですかさず、ヤドカリは空き家へ入り込み新居を獲得。家を奪われたヤドカリは、前の住人が捨てた空き家に入り込み一件落着。この執念は見習うべき。

人にとって、居心地のよい家こそ、その生活の原点ではないでしょうか。手になじんだ道具が使いやすいように、身体になじんだ家は暮らしやすいのです。衣、食、住、全てを自分の好みに合わせるのが人生の楽しみです。職人の使い慣れた道具は全て、職人本人の手でカスタマイズされ、まるで、手の一部となることで良い仕事が出来る。道具も使っているうちに直すべき所が分かり、そこを直すことで楽に使えるようになる。

お仕着せの3LDKでは、家族の構成が変われば、使えない部屋、物置ばかりになりかねない。家の中を使いやすく変えてみませんか。子供部屋は本当に必要でしょうか。趣味の世界を、隅でこそこそするのではなく、ダイニングの隣に趣味のコーナーを堂々と取って、家族を巻き込んではいかがでしょうか。工夫次第で家はいくらでも変化します。

熟年の二人暮しに、ファミリープランの3LDKは似合いません。最後の充実した生活を送るためにも、生活形態にあわせた家作りこそ、いったん取得した家に振り回されない、自由な生き方ではないでしょうか

皆さん生活を楽しむために、気軽に今の家をカスタマイズしてはいかがでしょうか。

住まいの話題[84]執筆者
■田中 邑(たなか ゆう)/ (株)田中邑建築設計事務所

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