■住まいの話題[89]:街に住み続ける
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プロチダ
昔、イタリアを旅した際、ナポリの沖に浮かぶ島プロチダに立寄った。船が徐々に島に近づくにつれ目を疑った。パステルカラーに彩られた街が地中海ブルーの上に忽然と姿を見せたのだ。漁船に塗ったペンキの余りを勝手に塗ったのが始まりという。だが、不規則で自由気ままな中に不思議な麗しい秩序が保たれている。「どうだ。美しい街だろ!!」村の男が胸を張って自慢した。海辺で会ったかわいい少女はカメラを見るなり、腰に手をやり「撮って!」と屈託がない。明るい強烈な個性と篤い連帯感が、この街を表情豊かな魅力ある集落にしたことは間違いない。
スタイル
家を造るには自分のスタイルを求めるべきである。何が必要で何が必要でないか、情報量が多すぎる今日、本当に住みたいカタチをじっくりと、まず自分の頭で考えよう。旅と同様、建築(住宅)の計画は知的遊戯であり、何物からも自由であるはずです。限られた予算・環境条件などによって必ず制約はあるが、むしろそれらを逆手にとり、余りある自分の世界を創出したいものです。
色彩とおもちゃ箱
たとえば「茅ヶ崎の家」は、色とライフスタイルにこだわったアトリエ住宅である。施主がアーティストであり、暮らすことと情報発信基地としての空間が求められた。施主のテーマーカラーである赤をコンクリートの箱の中にいかにイキイキと表現するかが鍵であった。線状のもの(スティールの手摺や螺旋階段等)はオイルペイント、面状のもの(木製家具や扉等)は染木とし、赤の中にも質感の違いを楽しみ、全体的には船を思わせる「おとなのおもちゃ箱」のような家になった。
プロチダの街並
茅ヶ崎の家(上段)と横浜の家(下段)
フレームとスクリーン
たとえば「横浜の家」は、環境と共生することを念頭に計画された。南西に3スパンのコンクリートフレームを寄せて置き、北東の2面道路側にスクリーン壁を廻した。壁はフレームより低く抑え、道路側への威圧感を消し、カラシ色のスタッコ仕上げとした。壁とフレーム間は庭・テラス・階段などに利用し、敷地と建物の角度調整と街と住居のクッションゾーンとして役立っている。また、フレームの余った部分は将来の予備スペースとなる。個々の領域を守りながら外部に対してある表情を持つことが、街を活性化し、愛着を抱かせることになるだろう。
みる目
かつてどんな町でも、大工・左官・畳・建具などのちゃんとした職人がいて、誰でも気軽に注文さえすれば、それなりのものが作れた。現在、日本のデザイン分野で、ID・電気・自動車産業などに較べ最も遅れているのが住宅産業です。世界との本格的な競争を経ていないからです。施工まで数々の業種が介在しコストが跳ね上がり、施主の側も人生最大の買物にもかかわらず、目をそらし諦めがちです。大事なことは、ブランドや組織に委ねるのではなく、もう一度、作る事の原点に戻り、物をよくみる目を鍛えることです。
再訪
あれから2年後にまたプロチダを訪ねた。一部の壁の色が少し変わっていた。元の壁に別の色が重ねられ、層が厚くなり角がとれ丸みを帯びた建物から、手の温かさが伝わってくる。生活は厳しいが人々の表情は太陽のように明るい。街にこだわり、住み続けることの意味がわかったような気がした。自分の家を自分達で何年も造り続けているのですから。ナポリへの帰りの船上で偶然、2年前海辺で会った少女らしき人を見かけた。写真を見せたら「私だ」と言う。すっかり美しい娘に成長したのには驚かされた。この国は、街も人々も成熟するスピードが僕等よりすごく早いんだと妙なところで感心した。
住まいの話題[89]執筆者
■小島 嘉重(こじま よししげ)/ 小島石山アトリエ

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