■住まいの話題[96]:幼い頃の記憶とはじめての家づくり
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子供の頃、二間しかない長家に住んでいました。台所兼用の1帖の廊下があり、廊下の床は黒く日焼けし分厚く反った杉板で、その下には土間を直接利用した床下収納がありました。そこは私の隠れ家であり、一家の主人の天然酒貯蔵庫でもありました。居間に入る時も、ちっちゃな子供部屋に入る時も、その1帖の廊下を通らなければなりません。私の家づくりのベースはすべてここから始まっています。

子供の頃の記憶は、その多くが家での出来事や家族との思い出ではないでしょうか? そしてその記憶が、はじめての家づくりをする際の基本要素の大部分を占めることになるのだと思います。

山奥に家があり不便だったので都会の便利な所に住みたい。その逆もあるでしょう。山(海)育ちなのでどうしても同じ環境で生活したい。小さな家が不便だったから大きな家に住みたい。家にあった自分だけの「宝物」を取り入れてはじめての家づくりをしたい。私は常々こうした「宝物」や「環境」を建築主から探り出し、家づくりに反映させたいと思っています。

宝物

廊下の隅に電話がありその電話が鳴ったとします。ある人は「楽しい知らせ」を待っているので喜んで受話器をとります。ある人は望まない「悲しい知らせ」を告げる電話には出たくない。これは冷戦時代における東西の国々の生活環境にも顕著に現れています。西側の電話は「楽しい知らせを届けてくれるもの、つまりインテリアの一部になるもの」であり、東側の電話は「悲しい知らせを届けるもの、つまり目立たせたくないもの」です。

このように人の環境や習慣や記憶によって、宝物(ここでは電話)は変化し、同じ物でも捕らえ方が全く違うものになるのです。住宅に例えると、広くて明るいキッチンが必ずしも良いキッチンではないのです。宝物とはその人にしか分からない不思議なものなのです。

N-RESIDENCEの居間(1)
N-RESIDENCEの居間(2)

また、昔から使っている大好きなコーヒーカップがあり、それに合う家づくりをするとしましょう。まずカップに合ったソーサーやランチョンマットを見つけ、それに似合うテーブルを考えます。テーブルが家のどこに置かれるかをイメージして間取りや材料を決めていきます。

このように、最初に「箱」があるのではなく、小さな「宝物」から家を造り上げていくのも楽しいと思いませんか? 写真の家は、代々受け継がれてきた和箪笥から家づくりが始まっています。

環境

住環境には自然や生活などの環境要素があります。自然環境はその地域の気候風土と切り離せないものです。山中の閑静な場所に色鮮やかなサイディングは似合いません。周りの景色に調和する昔ながらの下見板張りや土塗壁などが似合うと思いませんか?

また昨今、高気密・高断熱が当然と言われるようになって皆が飛びつき、その結果シックハウス等の弊害が問題となるようになりました。確かに、寒冷地での気密性と断熱性はとても重要であり必要不可欠なものです。でも温暖な地域では、あえて気密性を重視せず、呼吸のできる家の方が人にも家にも優しいのです。

冬は寒く夏は暑いもの。家も夏は汗をかき冬は凍り付くのです。室内が一定に保たれた住宅は呼吸が出来ず、機械による強制的な換気システムに頼らざるを得なくなります。もっと自然環境にあった家づくりをしたいものです。

たとえ二間しかない家でも住まい手が癒される家づくりをすることが、私にとって今後の目標であり課題でもあります。

住まいの話題[96]執筆者
■中村 進(なかむら すすむ)/ 一級建築士事務所 ペグ・ディー

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