祖母の鏡台から私の顔ほどの大きさの手鏡を持ち出す。何度も息を吹きかけては一点の曇りもないように磨き上げる。ぴかぴかになった鏡を上向きに胸の前に捧げ持ち、一呼吸息を整えて鏡の中に目を落とす。探検の始まりである。
時は50年前、私は6才。ここは私が生まれた田舎町の家の「イロリノマ」。
<床>は夕方のように薄暗く、畳が消えて黒ずんだ板張に変わってしまった<床>の上には細い棒が並んでいる。タンスもヒバチも消えてしまった。イロリ(掘炬燵をそう呼んでいた)があったはずの部屋の真ん中には、上向きの電灯の笠が<床>に突き立った棒の上でかすかに揺れている。隅に白い毛玉のように見えるのはヘンバリ(蜘蛛の巣)だろうか。
カラカミもショウジも下に壁が立ち上がり、またぎ越さないと外には出られなくなっている。カラカミの隙間から見える隣の「ブツマ」の一段と暗い<床>の隅からは、逆立ちした鬼の面がこちらを睨んでいる。こっちはごめんだ。
玄関側の「アガリハナ」 へ行くことにする。こっちは少しばかり<床>が高くなっている。 ここも<床>は板張りだが「イロリノマ」のような木目がなくてずっしりと赤黒い。 <床>の上には同じように棒が並んでいるが、間隔が広く太さは柱ほどもある 。赤茶色の電線が二本ずつ組になって張られているのを避けながら前進する。