■住まいの話題[101]:「在る」ことの喜び
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建築家がよく口にする「空間」とは何でしょうか? 私は建築の設計を専らとしているためでしょうか、言葉によって何かを表そうという衝動を感じません・・・。言葉は抽象的で回りくどい媒体であり、表現しようとするその指先からこぼれ落ちてしまうさまざまなニュアンス、また逆にその饒舌さに比例する意味の多さがもたらす不確実性がとても気になるからです。

しかし、一方でそうしたニュアンスを的確に表現した文章に出会うと、新たなビジョンと共に豊かな地平が自分の中に開かれるようでもあります。

空間とは

先日、友人の建築家と会話中のこと。彼があまりに「空間、空間」と繰り返すので、空間とは何なのかという疑問が湧いてきました。

「空間」という言葉をイメージしていくと、次に「存在」という言葉が浮かんできました。そこで私は直感的に、空間とは存在そのもののことではないかと思いました。それは自分自身が在るということを認識し、肯定する場所のことではないだろうか? ということです。

建築界では一般に空間というと単にヴォイド(囲われた内部)のことを指すことが多いし、実際のところ私も職業柄あまり考えもせずにそのように言葉を使っていました。しかし、それはどうやらヴォイドのことではない。空間とは、そのものから発せられるもの、そのものの霊魂のようなもの、そのもの、レーゾンデートル[raison d'_tre]のような気がするのです。

ここで、空間を「建築」と呼び代えて良いかもしれません。つまり、そのような場合においてこそ、空間=建築が意味を獲得するのではないかと思うのです。

週末住居の2階平面図:平面の中心には
寝室が配置され住居の核となっている。
週末住居の立面図:窓からはヨットハーバーが見渡せる。

なにごとにおいても、常にwhat? why? の次にhow? がやってきます。従って、空間=建築としてあらしめるための機能性、合理性、そして美であろうから、○○主義などと標榜することはほとんど意味がないと思うのです。それらはもっと大きな目的に至るまでの単なる手がかりに過ぎないのではないかと思います。

建築はプロポーション(縦横高さの比例関係)や快適性、機能性のみでは決して定義されません。それは物理的な形ではなく、ひとつの状態、「在り方」ではないでしょうか。

居心地の良さとは

私は「空間」という言葉に常に違和感と疎外感を抱いていました。しかし、今こうして思うのは、ずっと探してきたもの、必要としてきたもの、それこそが空間=建築なのだということです。

それは「在る」という感覚。そして、今あなたが「ここ」になぜいるのかということが明らかになることだと思います。更には、在ることそのものに絶対的幸福感を抱き、自ら祝福することが可能となるのです。たったそれだけのことですが、それを実感する人や場所は意外に少ないと思います。

これは特に建築に限った事はありません。実は人々が好んで訪れる名所・名景などは、こうした自分自身が在るということを祝福するような要素を多分に有しているように思います。

みなさんが住宅に求める居心地の良さは、その根底において、自分自身が在るという根元的感覚の希求に根差しているのではないでしょうか。

私はそうしたことを念頭におきながら仕事をしていきたいと考えています。

住まいの話題[101]執筆者
■手嶋 保(てしま たもつ)/ 手嶋 保 建築事務所

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