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| 人と物 |
建築の仕事に携わり、これまで「ものづくり」という窓から様々な人と物に出会ってきた。時にそれらは私の理解の範囲を越えるものであったり、いい刺激を生み人間の幅を広げてもらったように思えます。作り手としては造られたものにこだわり、そのものからすべてを考えたいと思っていますが、時としてそこに関わる人間のほうが魅力的に見えてくることも多々あります。そもそも、人と物の関係はそういった不可分な関係なのかもしれません。 |
| 300歳の民家 |
50代の知人に、滋賀県甲賀に300歳の民家を借りて住んでいる、とても生活力のある写真家がいます。いじわるな彼は、遊びにきた私にかならず「お前が作っている現代建築はこの300年の民家に勝てるのか?」と訊きます。確かに大黒柱・神棚・高い敷居・土間などがあるこの建物は魅力的です。しかしその民家よりもそこに住んでいる知人のほうが凄いと思ってしまいます。だいたいこの民家、屋根裏部屋は瓦の隙間から無数の奇麗な光が入る有り様で、横なぐりの雨ならば間違いなく漏るでしょう。冬は隙間風が通っていくのが見えるくらいです。
そんな民家を、見えない土壁まで剥がして補修し、囲炉裏を自分でつくり、大きなちょうちん照明をぶら下げたのです。そして何よりも、彼の知り合いたちの陶芸作品群による外庭と内部空間のしつらえが素晴らしいのです。また陶芸作家の器などは実際に使っているので、終日ここにいるだけで、美術館では味わえない体験もできます。「300年の民家に勝てるか?」というこの問いは私にとって、人生の一つの目標あるいは難問です。と同時に、生活力/住民力と建物の継続的な関係を考えるきっかけの言葉でもあります。 |
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300歳の民家 (左:内部。右:陶芸作品と外観) |
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38歳の集合住宅 (左:内から外を。右:表参道と外観) |
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| 38歳の集合住宅 |
今年の2月から縁あって、原宿の表参道に面するコープオリンピアという建物に事務所を移しました。この建物は東京オリンピックの翌年に建ったこともあり、あの良き時代の雰囲気を残しています。屋上には洗濯物干し場や小さなプール、各階のエレベーターの脇には今ではあまり見られないメールダクトがあります。計画自体も最近のコーポラティブみたいなもので、建てた当時は“プロジェクトX”並に大変だったと聞きます。
38年たった今は、2週間に一度はどこかの住戸の防水や改築工事でガアガアと音がします。受付には管理組合の人が常時2人いて、居住者以外は「どちらにいかれますか?」とチェックされます。機械室にも常時人がいてこまごまと直しています。外の世界は観光地“原宿”が広がっていますが、でもここだけは、スローライフ的な空気、かつての共同体思想が生きている感じがします。ついこの間も電気容量アップのため、平日の午前8時から午後8時まで電気がとまっていました。忙しい街“東京”のなかで不便と同居しながらも、大切な何かを訴えている建物や生活があるように思われます。 |
| 人と物と人 |
家づくりの場合は、施主と建築家の間に「住宅」という物が入ります。品確法、欠陥住宅、シックハウス、高断熱・高気密、お金など、設計段階で押さえなければならない様々な問題があります。しかし、それだけではない大事なことがあるのではと最近特に思います。知り合いの建築家に雨が漏っても施主との関係が良好な人がいます。逆に、たいした問題ではないのにもめてしまう人もいます。だからその種の結果ではなく、施主との交わりのプロセスや打合せが本当に重要なのではないかと感じます。
家づくりの道のりは結構大変です。それなら、なおさらのこと楽しまなきゃ!「よし、とにかく楽しい打合せをしよう」と考える今日このごろです。 |
住まいの話題[116]執筆者
■上野 タケシ(うえの たけし)/ 上野タケシ建築設計事務所 |