■住まいの話題[122]:神は細部(ディテール)に宿る:小さなトグルスイッチの話
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神は細部(ディテール)に宿る

近代建築の巨匠ミース・ファン・デル・ローエは「神は細部(ディテール)に宿る」ということばを残しました。優れた作品には人智を凌ぐような秀逸な細部がある、あるいは、作り手や建築家の思いは建物の細部(ディテール)にこそ表れるという意味で、建築の世界では今でも使われていることばです。

古代より優れた建築には優れた細部(ディテール)が備わっていました。例えば、ギリシャやローマの神殿の柱や日本の寺院の軒先を支える二重三重の組物などには、ダイナミックな造形を裏付ける知恵と技術が表現されています。近代の建物でも明治村に保存されている「帝国ホテル」(フランク・ロイド・ライト設計、1923年)の大谷石の壁面や、鎌倉の「神奈川県立近代美術館・鎌倉館」(坂倉準三設計、1951年)の宙に浮いたような階段などには、建築家や職人の理念や執念が刻み込まれているような迫力があり、細部(ディテール)にはまさに「神が宿った」ような趣があります。

細部(ディテール)を巡る小さな冒険

翻って現代の建築はどうでしょうか。私には細部の面白さが徐々に失われつつあるように思えます。特に日本の住宅ではその傾向が顕著です。日本ではほとんどの部材が事前に工場で生産され、どこの現場にも安定して供給されます。そのため細部に凝らないことがローコストへの近道になってしまいました。アルミサッシや自動ドアがこんなに精度高く、かつ安価に手に入る国はおそらく日本以外にはないでしょう。しかし、このことがかえって建築のディテールの個性を奪い、建物をつまらなくしているともいえるのです。

そんなことへのささやかな抵抗として、「神武寺の家」(山中新太郎、西松繁郎、野伏武彦設計、2000年)では少し風変わりな電気スイッチを使いました。トグルスイッチというスイッチです(左の写真)。電気スイッチの原点のようなものですが、お馴染みの白いプラスチックのスイッチ板に押されて、今では建築現場でほとんど使われなくなってしまったものです。

螺旋階段に取り付けられたトグルスイッチ
螺旋階段が1,2階をつなぐ「神武寺の家」

これを螺旋階段とキッチンに使いました。これには訳があります。実はどちらの箇所にも普通のスイッチプレートが納まらなかったのです。当時一緒に設計していた西松がトグルスイッチのカタログを探してきました。設計者も建て主もこの素朴で懐かしい部品が一目で気に入りました。

ベテランの電気屋さんに相談したところ、「トグルスイッチですか、懐かしいですね。私が取り付けましょう」と快く引き受けてくれました。家具屋さんも家具のわずかな隙間を縫って配線スペースを確保し、トグルスイッチが取り付くように下地の補強を入れ、鉄骨屋さんも階段の円筒形の壁に荷重を掛けないよう、中心の柱から丹念に段板を溶接してくれました。

トグルスイッチから始まったディテールの試みは、家具工事や鉄骨工事なども巻き込んで、建物全体を変えていきました。出来上がった螺旋階段やキッチンは、意味的にも意匠的にも、この家にとって象徴的な存在になったといえます(右の写真)。

大きな物差しと小さな物差し

建築のディテールが見えてくると建築全体の見え方が変わってきます。建築はスケールの違ういくつかの「物差し」を持って見るべきです。全体を見るような「大きな物差し」の他に、ディテールを見るような「小さな物差し」を持つことによって、今まで見てきた建物もきっと違って見えてくるはずです。こうした見る意識の変化が、神の宿るような細部(ディテール)を生み出し、それを評価していく素地になっていきます。

自分の家を考えるときも、工業化に巻き込まれないようなささやかな細部(ディテール)を考えてみたいものです。

住まいの話題[122]執筆者
■山中 新太郎(やまなか しんたろう)/ 一級建築士事務所 山中新太郎建築設計事務所

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