■住まいの話題[128]:住宅を「つくる」意味
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「白」から「黒」まで

私の設計したふたつの住宅が同時期に竣工しました。ひとつは白い外観で、もうひとつは黒いものです。設計期間と工事も概ね同時期に進みましたが、ふたつはとても違った住宅となりました。

「白の住宅」は郊外の住宅地に位置し、私と同世代の夫婦のための専用住宅です。建築の仕様としては、内外装とも比較的グレードの高い仕上げ材で構成され、蓄熱式の床暖房や全熱交換換気設備の採用など設備的にも充実しています。(写真左)

「黒の住宅」は都心の10坪余りという狭隘地にあり、施主は私自身であり、自邸と事務所をかねた建築です。仕上げはほとんどなく、床・壁・天井のほとんどが粗いコンクリート素地を露出させており、設備的にも最小限のものを備えるにとどめています。(写真右)

住宅は前提条件や規模などの具体的な要望に加え、施主の個性や嗜好によってその姿を大きく変えますが、それを建築家が意図的にコントロールすべきではありません。むしろ、その振れ幅を実感し許容することが住宅建築の魅力です。だからこそ、「白」と「黒」の違った住宅が生まれたのです。

「つくる」プロセス

建築は敷地や建物に求められる規模、用途などの諸条件のみによって、自動的に構成され完成するものではありません。また、建築家が過去の実績や技術的なノウハウの蓄積のみを頼りに計画をまとめるものでもありません。むしろ、建築家は計画の初期的段階においてそれらをリセットし、新しい計画に、より純粋な姿勢で取り組みます。

もちろん、諸条件や建築家のもつ実績や経験は、住宅を含め建築をつくるうえで重要な指針となりますが、その計画がはじまったときから経験する多くの経緯の積み重ねこそが、建築という成果となります。住宅の場合は、そのプロセスの重要性がより強くあるように思います。

白の住宅
黒の住宅

「施主」と「建築家」、工事がはじまると「施工者」、この三者によって繰り広げられる膨大な時間とエネルギーを費やした住宅をつくるプロセスは、規模や工事費などとはほとんど無関係に、まったく同等にそれぞれの住宅に存在します。そして、このプロセスによって生まれるストレスは少なくとも住宅の場合、建築家や施工者のみに課せられるべきものではなく、施主にとってもおおいに共有されるべきものなのです。

確かに、住宅を建てることは施主にとって、とても楽しみなことではありますが、このストレスを乗り越えてこそ得られる達成感は、住宅の設計がはじまり竣工するまでの時間とは比べものにならないほど長時間にわたる、竣工後に展開される住宅との関わりにとって大切なものを獲得したという証になるのです。

「つくる」ということ

施主にとって、莫大なエネルギーと資金を費やして竣工した住宅で生活をはじめることはとてもうれしいものです。また、竣工した安堵感もあります。それらの喜びや安堵によって、住宅づくりが終わり、そこから開放された訳ではありません。

どれほど議論しつくされ、満足な計画をもとに完成した住宅であっても、新たな欲求は生まれてきます。それは、住む人の生活や考え方がどんどん変わっていくことに大きな要因があります。例えば、子供が生まれるとか、高齢になっていくなどです。それ以外のもっと些細なことでも、住宅に対する新たな欲求はどんどん大きくなってきます。

それらをひとつひとつ解決するために、ハードウェアとしての建築が、柔軟にかつ様々な新しい展開に対応できるよう計画されることはとても重要です。しかも、施主として大変なストレスを伴って建設に関わった経験は、住宅との良好な関係を生みだすノウハウを知らず知らずのうちに得ているはずです。そして「住宅をつくる」ということは、施主にとっても、建築家にとっても、いつまでも、いつまでも続くのです。

住まいの話題[128]執筆者
■川島 茂(かわしま しげる)/ 川島鈴鹿建築計画

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