■住まいの話題[138]:民家のこころで家づくり
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民家に出会う

昨夏、佐倉市で移築を前提とした民家の解体調査に携わりました。築後50年程ですから民家といっても新しいものです。一見ごくありふれた農家住宅にしか見えず、とても保存の対象になどなりはしないと思っていました。ところが解体してみて、とんでもない見当違いをしていたことを思い知らされました。それは私の想像をはるかに超えた代物でした。

屋根を支える小屋組は、曲りくねった丸太梁を何層にも組上げてあり、よくぞこれだけ複雑な作業をまとめあげたものだと感心せずにはおられませんでした。梁の長さは長い物では12メートルにもおよびます。長すぎて道路を運べないのではと聞いてみたら、案の定、裏山に生えていた木を伐って使ったとのこと。筋交いの類は一切なく、太い柱梁の仕口(交叉部分)の強度と、壁の中で柱と柱をつなぐ貫といわれる横材で地震に抵抗しているのです。強固な小屋組が、それを可能にしているのでしょう。

座敷部分の重厚な柱、高い天井、手の込んだ組子の欄間や建具など、今設計したら、とんでもなく費用がかかりそうです。しかし考えてみれば、つい数十年前まで、住宅は熟練した技能を持った職人達の手によって、このように創られてきたのです。

失われていない伝統技術

ハウスメーカーが住宅市場を席巻してから、無垢の木を使い、柱や梁を現しにしてつくる家は、高価で特別なものという感覚が定着しつつあります。でも地方にいけば、昔とそれほど変わらない方法で家を建てている工務店はいっぱいあります。地方だけではありません。都市部にも、伝統技能にこだわって、家づくりを続けている職人達はまだまだ残っています。

解体で現れた民家の小屋組
S邸:都市部の小住宅ながら民家風の趣。

彼らは柱梁の加工を自ら手きざみします。無垢の木は乾燥に伴って変形しますが、どのように変形するか、一本一本くせをみて、使い勝手を判断して加工する必要があります。それは経験を要する難しい作業で、プレカット工場ではとてもできません。さすがに、曲った丸太梁を常日頃から扱っている大工は滅多にいませんが、基本的な技術は生き続けているのです。

そもそもハウスメーカーの仕事をしている職人達も、伝統構法で修行をした人が多いのです。でも新建材で骨組を覆い隠す手法になれてしまい、身につけた技術を失いつつあります。そこには、創る喜びは希薄です。

森林と町を結ぶ

私が関わる工務店はそれぞれ、国内の林産地とつながりを持ち、直接木材を仕入れるルートを確立しています。それにより、良質で安価な木材をふんだんに使った家づくりを実現しています。構造材も造作材も全て杉桧。丸太をできるだけ無駄なく使います。芯に近いところは柱や梁に、外側は鴨居や枠や板材として使います。

そうしてできあがった家は、新建材に慣れた人の心も魅了します。それでいて思ったほど高価なものにもなりません。逆立ちしても輸入木材に太刀打ちできないのならともかく、価格の面でも十分に対抗できるだけの住宅が実現できるのです。でなければ、コストにシビアな工務店は手をだしません。

圧倒的に廉価な輸入木材に押され疲弊した林産地に活力を取り戻すことは、自然保護の観点からも重要です。山が荒廃すれば、川も海もだめになります。国産の杉桧でつくる家の魅力を知ってもらうことと共に、森林と町を結び、山を甦らせる運動にも取り組んでいくことが、これからの私の課題です。

住まいの話題[138]執筆者
■加瀬澤 文芳(かせざわ ふみよし)/ 株式会社 ゆま空間設計

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