■住まいの話題[147]:ゆく河の流れ
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方丈記

「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にはあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。」ご存知、「方丈記」の書出しの一節で、日本人の心情をとらえた名文である。また、変化の中にも詳細に観察するとひとつ一つ違いがあることなど、鋭い批評の文としても有名である。

変わりゆくもの

家づくりをお手伝いしていると方法や材料が変わってきたことに気づく。木造の家についていえば、本来、地域ごとに伝統的な工法というものがあって、雪の多い地方ではその重みをはね除けられるような工夫があったし、小京都などと呼ばれるみやびを誇る町には繊細な細工を施す工夫があった。しかし、今やそういう伝統的な工法や工夫はごく一部の人にしか出来ないものとなってしまい、どこでも同じような方法・材料・仕組みになってきた。もちろん、それには相当の理由と歴史があるのだが....。

古びる人

時を経ることによって変わるもの。第一には、ものは古びること。木材は古びて茶色に変化し、味のある色になる。木材の種類によって色は違うが、あめ色からこげ茶色までバラエティーがあり飽きない。金属も時と共に変化する。鉄は錆びて赤茶色になり、独特の表情を表す。

第二は、人が古びること。一般的には老化という。手や顔の皮膚に変化が表れ、やがて動作も緩慢になっていく。しかし、長い経験から広くものを見て言うことなど、人のお役にたつこともある。

子供室:間仕切りは家具。ロフトも部屋になる。
コンクリートはフレームだ。内部は自由に作れる。

第三は、古びた人が住まう家も古びること。ただ、家が古びるだけでなく、住んでいる人が高齢化し、出来ないことが増えるに従い家が障害となり、それが家のせいにされる。始めから高齢者向けにつくっておけばいいのに、という訳だ。

錆が教える家

ではどうするか? 材料については木材が腐るのは腐朽菌のせいで、腐朽菌は乾燥した木材では繁殖しない。そこで、木造の建物の床下は風通しを良くしておくことが保存には大切だ。錆は鉄の表面を被ってそれ以上内部が錆びるのを防ぎ、自分の身を守るように出来ている。表面を塗装してやれば、もっと保存はいいだろう。

また、家は高齢者が出来なくなったことをサポートするように変わっていってほしいが、簡単には直せない。それでは事前に高齢者のことを考えてつくればいいかというと、そうでもない。人の古び方は千差万別であり、必ずしも考えたとおりに古びる訳ではない。前もって将来を見通してつくっておくことは難しい。

そこで、こうすればいいだろう。段差については、原則、室内の段差をなくし、道路から屋内に入る際は高齢化したときに対応出来るよう段差解消機やスロープを設置出来るスペースを確保しておく。水まわり部分の壁に関しては、最低2方向の壁が取り払えるよう筋交いなどを設けない。居室はなるべく小部屋にせず、家具や可動の間仕切りにしておく。廊下は将来、車椅子が通れるような有効幅を確保しておく。

変わるものに対応する

変化への対応はどうするか? なるべく、スペースをフレキシブルにしておく。つまり、備えをつくっておくということだ。予備となるそのスペースを必要になった時点でつくり直すのである。

ゆく河の流れのように、私達は時のうたかた(泡)となって流れていく。しかし、工夫次第で自分の身の回りの殻をつくることは出来る。

住まいの話題[147]執筆者
■岡田 安平(おかだ やすひら)/ 岡田安平建築設計事務所

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