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私たち建築の作り手には、空間を設計する際、常に「バランスとスケール感」が意識のベースにある。経験の中で自分が学んできたバランスとスケール感を応用し、分厚い資料集に掲載されている標準的サイズや法規制で定められている細かな寸法を考慮して、空間を作り出す。
部屋の間口・奥行き・高さの寸法にはじまり、引き戸の指のかけ方や力のかかり方など、人間の動きを細部まで想像しながら、ミリ(mm)単位を追いつつ、計画は進む。 |
| 圧倒される空間 |
「小宇宙」とも喩えられる茶室では、アプローチの庭を行き着き、小さな扉から中に入ると、今まで歩いてきた庭の植栽から部屋の隅々に至るまで、その周到な精密さに圧倒されてしまう。かつて日本の棟梁や職人たちが身につけていたこの種のディテールのバランスは、現在では見られない、とても貴重な美しさを持っている。
そこには、法規や標準仕様から導き出せない、作り手側の経験と創意工夫、そしてユーモアと苦悩に満ちた個性あるスケール感が存在する。茶室だけでなく、有名無名また老若男女を問わず、多くの作り手たちがこれまで手がけてきた秀逸な空間に身をおくと、思わず感嘆の声をあげてしまう。圧倒される空間に接するたび、私は自分の未熟さに落胆してしまうのだ。
しかし、圧倒され落胆し溜息をついているばかりでは、前に進めないのが建築の難しさ。空間を形作る際の重要な要素となるバランスとスケール感を身に着けていかなければ、建築は作れない。 |
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大和の家(改装) スケール感を得るためのスケッチ |
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大和の家(改装) 2階の居間と食堂 |
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| 盗み学ぶ |
私の場合、「うまい!」と思わず唸るような空間に出会うと、作り手の生き生きとした知識が溢れ出ているスケール感を忘れまいと、その空間の良さを自分の脳裏に焼き付ける作業に入る。慎重にアングルを決めてカメラのファインダーに収めたり、スケッチブックに書き記したり、建物の周辺を何度もうろうろしたりする。そう、人が見れば“挙動不審”行為と受け取るであろう悪癖。 |
| 原寸まで起こす |
そのようにして、長い期間をかけて少しずつ身についてきた(はずの)「バランスとスケール感」を、実際の建物に生かすため、スケッチや図面を通して施工者にきちんと伝えなければならないのも、建築家の仕事のひとつ。建物全体のイメージをばらばらとしたためた後、方眼紙を前に、こんなふうに表現したいと詳細にスケールをあげていく。必死で消しゴムをあて、コンベックス(鋼製巻尺)で幾度となく確認しながら、時として原寸にも及ぶことがあるスケッチを何枚も描いていく。
何度もやり直したそれらのスケッチや図面を現場に持ち込み、現場監督や職人さんと打ち合わせをする。施工の手順・コストの調整・材料の特性などをそのつど勘案しながら、また場合によっては現場で再度スケッチ類を書き改めながら、建物は徐々に作られていく。 |
| 建築家のスケールの大小 |
羨ましいほど大きな物件の企画設計をまとめている年上の建築家が、ある時、ポツリとこう言った。「本当は、独りでこつこつと納まりのアイディアを考えることのできる住宅がやりたいんだよね・・・」。スケールの大きい仕事を手がけている建築家でも、たとえ落ち込もうと、時間をかけてディテールを練り上げるような住宅の設計に、規模の大小では比べ難い大きな魅力を感じているのだろう。
人間の器の大きさを喩える「スケール」は“大きい”ほうが魅力的である。でも、建築の世界ではちょっと違う、と思うことがある。 |
住まいの話題[159]執筆者
■小高 由紀子(おだか ゆきこ)/ アトリエODK |