■住まいの話題[167]:グレープフルーツとヘアクリームは語る
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グレープフルーツ

ある日、私はスーパーでグレープフルーツを買ってきました。包丁で半分に割って、スプーンで掬って食べようと思ったのです。しかし、どうもうまく食べることができません。果汁はボタボタ落ちるし、飛び散るし、結局スプーンで掬い上げた果肉は、私の期待の半分くらいのものになっている始末です。私の持っているスプーンは、エッジが鈍く、うまく果肉を切り取ってくれないのです。「あぁ、もっとちゃんとしたスプーンを買わないとグレープフルーツ食べられないな」と思ったのでした。「形態は機能に従う」です。

しかし、ここで重要なのはそのことではありません。しばらくたって友人にこの話をすると、その友人が言ったのです。「おまえバカだねぇ。ミカンみたいに剥いて食べればいいじゃないか」と。

ヘアクリーム

いま薬局などに行くと、いろいろな整髪料が出ていて迷ってしまいます。その中から気に入ったヘアクリームを買ってきました。ヘアクリームで髪を整えた後、ベタベタするのがいやで手を洗い、そのままだと手がカサカサするので、ハンドクリームを塗って、これで、整髪完了。そんな一連の作業を毎朝繰返していました。

ある日、髪を切りに行った際、美容師さんが私の髪にヘアクリームをつけながらこう言いました。「この新しいヘアクリームいいんですよ。髪の毛につけたあと、手を洗わなくてもいいんです。そのまま手に擦り込むと肌がツルツルになるんです」。

2つのことが教えてくれたこと

グレープフルーツが教えてくれたのは、根拠のない思い込みや、刷り込まれたイメージによる先入観は、随分と自分の可能性を制限するものだな、ということでした。下手をすると、私は今後一生、グレープフルーツを食べようとしなかったかもしれないのです。

光を通す床1:
壁から突き出た階段を登るとペントハウス。
ペントハウスの床からリビングへ光が落ちる。
光を通す床2:
大正時代の建物内に作った光る床。
あるエキシビションのためのスペース。

ヘアクリームは、観察することの重要さと、新しいアイデアを導き出すための一つの方法を教えてくれます。私の生活の中で、「クリーム+手」という状況が短い時間の中で連続していたにもかかわらず、私はその事の持つ可能性や面白さ、あるいは不便さにぜんぜん気が付いていませんでした。無意識のうちに生活の中のいろいろなところに境界線を引いていたのです。

たとえばプロダクトデザインの世界では、幾つかの住宅で、「何と何が並んで置かれているか」を徹底的にリサーチすることで、新しい商品のデザインを作り出すということが行われているようです。このような、日常生活の中での「機能」や「行為」の重複や連続を見つけだすという方法は住宅の設計においても応用出来そうです。まずは現在住んでいる家の中に、「何と何が並んで置かれているか」を徹底的に観察してみるだけでも、新しい家の設計に生かせるかもしれません。

ときには頭の体操

自分の頭の中に刷り込まれている思い込みや先入観から抜け出して、距離を置いて一から考え直してみることはなかなか難しいことかもしれません。しかし、そこには楽しさと可能性が潜んでいそうです。もちろん建築には、「その形態がそうなっている理由。その納まりがそうなっている理由」があります。それは、法規、予算、技術的問題等さまざまです。

ですから、いろいろ考えたけれど最終的には結局平凡で見慣れたものに戻ってくるという場合が殆どかもしれません。でももしかしたら、素敵なアイデアでかつ実現可能なものがポロッと出てくるかもしれません。技術やライフスタイルは急速に変化し多様化してきていますから、私達が無意識のうちに「住宅ってこういうものだ」と思っているものの中にも、案外そうでないものが隠れているのではないでしょうか。それが、不特定多数の人たちのものではなく、ある一家族のための住宅のデザインであればこそ、なおさらその可能性があるのかもしれません。

住まいの話題[167]執筆者
■有田 佳生(ありた よしたか)/ A‐STUDIO 一級建築士事務所

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