■住まいの話題[180]:自分が設計した家に暮らして
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普段何かを設計するにあたって、「こうすべきだ」という確固たる目標が最初からあることはあまりない。敷地や周辺の街並みを観察し、施主と対話を重ねていくうちに、「こういう方向で考えていけばいいのかな?」というイメージが少しずつわいてくる。そしていくつもの模型を作るうちに、ひとつのかたちに収束していく。いつもそんな風にして設計を進めている。

自宅兼事務所を建てる
自分の家を設計するにあたっても同じだった。困ったことに、夫の方にも具体的な要望はほとんどなかった。唯一私たちが思い描いていたのは「のびやかに過ごすことのできるおおらかな家」。とても漠然としたイメージだ。でもそんな家だったら、今後新しい建物を設計していく中でも、愛着をもって住み続けていけるだろうと思ったし、これまで設計してきた住宅だって、どこかでそういうイメージをもちながら設計してきたように思う。

だから敷地を選ぶときも、整然とした住宅地より、つくりこまれていないおおらかな場所がよかった。幸運なことに、ぴったりの敷地に出会うことができた。うっそうとした雑木林に隣接した場所。北側は崖になっていて、上階からの景色はすばらしそうだ。それまで人の家よりも遙かに他人事に思えていた自分の家だったが、この敷地に出会ってからようやく、ちゃんと取り組める気がしてきた。
豊かな環境を最大限に生かす
3階レベルでは、北東は新宿の高層ビル群まで、北西は秩父の山あいまで視界がひらける。西側の雑木林と北東の欅が葉を茂らせ、遠くの風景を縁取っている。これら特徴ある眺めをなんとか連続した風景のまま取り込めないだろうか。
自邸の3階:リビング
長さ10mの出窓には好きなところに座ることができる
自邸の2階:視線の抜けるエントランス
左右の扉は金物の出ないディテールとし壁と同化させた

検討の結果、連続する開口部は長さ10mにもなった。せっかくこれだけの長さがあるのだから、ベンチのようにして、どこでも好きなところに座れるようにしよう。すばらしいことに、この高さの出窓は、建築面積及び延べ床面積にカウントされない。奥行きは45センチなので、4.5uほど得することになる。ダイニングはこのベンチを椅子として使うこともできるからコンパクトでいい。キッチンと階段を配置して残った部分をなるべく広く確保し、がらんとしたリビングができた。

2階は住戸のエントランス、浴室などの水回り及び寝室を確保する。エントランスは奥に広がる豊かな緑を取り入れるべく、南北に抜けるトンネルのような動線空間とする。ただし、両側には浴室やトイレや寝室へ行くための扉が4枚も並んでしまう。これらの扉のために、ここを通る人が遠慮を感じることになっては、「おおらかな」場所にはならないし、目の前の豊かな緑にもそぐわない。そこで金物類が見えないディテールの扉とし、つるんとした壁と同化させた。

打合せが変わるかも

完成した家では、今のところ大変幸せに日々過ごしている。自分が設計した家に住むのは窮屈では?という質問をたまにされるが、そんなことはなかった。考えるにそれは、細かいことよりまず先に、イメージを曖昧なままもちながら、周囲の環境に呼応させることに重きをおいたせいではないかと、現在考えている。そしてそれは、自分の家だからなのではなくどんな住宅でもそうなのではないか、とも考えはじめている。「こうでなければ!」ばかりが先行した建物は、窮屈な様相をまとってしまうのかもしれない。

施主の要望をチェックシートのようにクリアした住宅を作ることは難しいことではない。だがもう少し曖昧で言葉にしづらい、施主にとっての幸福なイメージを、敷地のもつポテンシャルのなかで実現させていけるといいなと思う。そのためには、施主と建築家は「打合せ」をするのではなく、まずは美味しいお酒でも共にしながら「語り合う」のが一番なのかもしれない。我が家の出窓は、そんなシチュエーションにも、もってこいである。
住まいの話題[180]執筆者
■都留 理子(つる りこ)/都留理子建築設計スタジオ

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