■住まいの話題[205]:原風景への回帰
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誰もが、自分を育んでくれた故郷の原風景を多少なりとは持っていることでしょう。その風景が魅力あるものであれば大切にしたいと考える人も多いはずです。ここでは、寺院の庫裏改修を通して感じた原風景への想いを記してみたいと思います。
何故、改修か?
改修に携わったのは、小田原市国府津にある寺院の庫裡(築200年)です。ご存知のように、庫裏は住職の住まいであると同時に、法事等で利用する広間を備えています。台所を中心とした水廻りを使いやすくする当初の依頼が、使い易さの改善にとどまらず、見えない箇所の構造上の問題にも発展しました。もともと台所と浴室は北側に位置し、隙間だらけで気密性がなく、しかも湿気で床下材の腐りが進行し、冬寒く夏じめじめした不快な環境でした。

新しく建て替えを唱える人もいましたが、庫裏は代々受け継がれたお寺の中心的な建物の一つであり、檀家の方々にとっては変わるべきではない原風景です。国府津山を背景にしたランドマーク的な景観も土地の人々にとっての原風景に他なりません。一方、今では入手困難な立派な小屋梁は稀少価値があります。これらの点を総合的に判断し、「今後50年間改修しなくても済むようしっかりとした工事をして次世代に引き継ぐ」という提案をした結果、檀家の方々の思いが一つになりました。
ソフトとハードの改修
既存建物の調査をしてわかったことは、40年前の改修では、古材を不適切に使いかつ本来の古代(貫)構法を崩して一部にスチール製の筋交を入れた変則的な構法になっていたことです。そのため改修方針が、使い勝手というソフト面だけでなく、壁や床下や小屋裏など構造を本来のあるべき姿に近づけるというハード面にも及びました。
庫裏南側(書院〜縁側)を見る アイランドキッチンと食堂を見る
ソフト面では、天井を高くして小屋組を露出させ、開口部も大きくして採光や通風に工夫し、床下は腐った柱の足元を根継ぎしたり礎石周辺のレベルを調整したりして通気を確保し、床と天井に断熱材を入れることで断熱性能も向上させました。台所では大型のアイランドキッチンと大小の収納を分散配置し、家族4人の日常使用と法事の両方に対応できるよう配慮しました。問題はハード面です。設計図書も完成し工事業者選定の段階になって、改修技術を持った宮大工が小田原に一人もいないことが判明したからです。でも幸いに、施工会社が山梨の宮大工を参加させることで事なきを得ました。
原風景に欠かせない要素
改修現場で感じたこと、それは確かな技術をもった職人の存在が伝統的な日本建築と原風景を残す鍵となる点です。実際の工事では、建設会社や棟梁と共に200年前の建物に敬意を払って丁寧な仕事を心掛けながら作業を進めたため、左官や建具などの職人達も負けじと良い仕事をし、住職を始め檀家の方々が大満足する結果となりました。庫裏は50年後に再度、保存か建て替えかの時期を迎えます。しかし現時点で、庫裏は改修によってその土地の人々の原風景として残りました。
かけがえのない風景
原風景は、新たな土地に移り住居を構えた人にとっても、その場所が新しい原風景となって次世代へと引き継がれていきます。そうして風景や町並みが形成されていくのです。でも、自分を育んだ原風景に愛着がない人や開発業者といった第三者が多く関わった計画では、その場の風景は脈絡もなく変化し失われていきます。

必要なことは、何を残し何を変えるかの区別を明確にすることです。原風景に愛着のある人ならば、樹齢100年以上の大木を簡単には伐れないでしょうし、緑豊かな住宅地に緑のない住居を構えることもないはずです。それが繰り返されると場所の魅力は失われ、結果として長年住み慣れた町を諦め、別の場所に移り住むことになります。そのような状況をしばしば目にするのは、まことに残念です。

家づくりは風景づくりです。自分にとって魅力ある原風景とは何かを再認識し、家づくりを通じて、子供世代が誇りを持って受け継ぐことのできる町づくりをしてみませんか。一人でも多くの方が風景づくりへの関心を高め、魅力ある原風景が増えることを期待してやみません。
住まいの話題[205]執筆者
■佐々木 健(ささき たけし)/ (株)ケン アンド スタジオ バンガード

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