■住まいの話題[208]:施主自身の「夢の家」
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家は施主にとって大切な資産です。ですから、家が丈夫で機能的であることはとても大事な必要条件です。しかし、建築家を使うのですから、それ以上にできるはずです。建築家は、施主自身の頭の中にある"ドラえもんのような"本当に自由な夢、これを目に見える形で、実現するお手伝いをするからです。
「大切なこと」を見つけよう
「使いやすくて、収納が多くて、キッチンは対面式で・・・」と実用的な要望を出すのは、わりにたやすいことのようです。しかし、誰もがもっているはずの、頭の中の自由な夢、例えば、玄関の戸はどこでもドアーがいいとか、塵のように空間をずっと漂っていたいとか、イルカになりたいとか・・・。こうした制約のない、本当に自由な夢を見つけることは少し手間のかかることです。「施主の頭の中にある自由な夢」、これこそがもっとも大事なことで、そこから、住まいにおける施主自身の「大切にすべきこと」が導かれてくるはずです。

では、どうしたらこの「自由な夢」を見つけられるのでしょうか。大げさな言い方をすれば、これは自分自身を再認識することだと思います。つまり、自分はどんな人間で、何を考え、これからの長い時間をどのように過ごしたいのかなど、いろいろなことをもう一度確認していく作業ではないでしょうか。その上で、自身にとっての「大切なこと」を探し出していくのです。

この世の中に同じ人間はいないのですから、当然、「大切なこと」も常に違うものとなります。ですから、その点をしっかりと理解しながら家づくりをすれば、どの家もおのずから、流行りのなになに風ではない、独自のデザインとなるはずです。無理に変わったデザインをする必要はないと思います。施主が本当に大切に思うこと、それがデザインになるのですから。
時間の長くなる家:リビングを見る 風はまだか?
例を挙げると、ある施主はまず雑誌を取り出し「コンクリート打ち放しでモダン系の・・・」と語り始めました。しかし、ヒヤリングを重ねるうちに、「飛行機が好きで、いつもふらっと当てもなく飛んでいきたい」という話が出てきました。そこで、"今は使われていない滑走路に、複翼機が留まり、いい風がこないかと待っているうちに、家族ができ、留まったままになり、それでも毎日風を見ている"というスケッチを描きました。施主は「風はまだか?」と題したこのスケッチのイメージをとても気に入り、結果として、始めに示された雑誌のそれとは全く違う、軽やかな雰囲気の建物となりました。
夢を叶えるお手伝い
しかしながら、「大切なこと」を自身で見つけ出すことはなかなか大変なことです。自分のことは、ときに、第三者の方が見つけやすいことがあります。「施主の頭の中にある自由な夢」を引き出し、「大切なこと」を見つけ出すお手伝いをすること、それを施主と一緒に具体的な形にしていくこと、これが建築家に課せられた仕事の重要な一部です。決して、建築家の頭の中にあるイメージを形にすることが仕事ではないと思うのです。

形の具体化方法の一つとして、私は施主自身を良く知るためにヒヤリングを何度もします。具体的にはこのような質問です。「1ヶ月間休みがとれたら何をしますか?」「おすすめの映画は? 愛読書は何ですか?」「日本以外のどこかに住む必要が生じたら、どこに住みますか?」・・・。これらを基に、施主自身の考えや生き方や、どのような夢を抱いているかなどを話し合っていきます。その過程の中で、何を大切にしていくべきか、一緒に考えます。

写真に示した住宅はこのヒヤリング手法を駆使した例です。私の質問に対し、施主は「1週間があっという間に過ぎてしまう」と答えました。その言葉がヒントとなり、施主が時間をとても大事に考えていることがわかりました。こうして「時間の長くなる家」がこの家の設計コンセプトになり、家づくりの目標になりました。

家づくりでは、収納・部屋数・まな板を置く場所など様々な要望を満たすことはもちろんですが、最終的には、施主自身でも気づかなかったような「夢」が実現することです。建築家はそれを助ける、プロのお手伝いさんなのです。
住まいの話題[208]執筆者
■日高 俊彦(ひだか としひこ)/ 日高俊彦建築設計

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