■住まいの話題[216]:「リアリティー」のあるデザイン
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現実その1−人間の関心の度合いとモノのスケールは一致しない
レストランで食事をした後に何を思い出しますか? それは店員の心温まるサービスであったり、握った取手であったり、テーブルに飾られた花であったりするでしょう。もしかしたら一番思い出すものは料理で、デザインされた空間なんか全く思い出せないかも知れませんね。人間の関心の対象は部分的な不特定のアイテムや設えに向かい、建築のシステムや空間の構造を分析することは、まずありません。
手法その1−ズームインとズームアウト
建築デザインの目標が施主の満足にあるのだとすれば、空間全体の設計とその部分を構成するアイテムは共に重要です。それは、施主の関心の度合いと添い寝するようなものです。頭の中やスケッチを描く手の先は、ズームインとズームアウトを繰り返します。僕自身は、いわば未来に立ち現れるであろう空間を眺める望遠レンズのようなものです。取手のデザインは空間全体のデザインと同じ位重要なのです。
現実その2−図面に存在しないモノたち=アイテムの集積が空間を作る
テーブルに生けられた、たった1輪の花が建築以上に空間の雰囲気を決定付けることがあります。古い桐箪笥が建築以上に存在を主張することがあります。現実の空間は、これらのアイテムの集積で作られます。施主が勝手に設えた図面には存在しないモノたちが、その場の雰囲気をかたち作ってゆくのです。
手法その2−デザインするのは「かたち」ではなく「可能性」と「動機付け」
それでは、空間のデザインとは何か? それはあと50cm広がれば、そこでお茶を飲みたくなるバルコニーの可能性、お気に入りの物を並べたくなる棚、モダンな家具ではなく骨董家具を置きたくなる空間をつくる事なのです。僕は良くスケッチを描きますが、図面にはない植栽やグラスを同時に描きます。
植物と薪がリビングの雰囲気をつくる 酒瓶と料理がホールの雰囲気をつくる
なぜなら、デザイン行為とは「かたち」を決めることではなく、住まい手の「可能性」と「動機付け」を空間にすり込む事だと考えているからです。図面に存在しないモノたちが、その空間の強さを証明してくれます。
現実その3−動く遠近法
現実の空間は遠近法を伴って見えてきます。さらに遠近法を伴った空間は、人間が動くことによって刻々と変化します。図面に描かれているような平面や立面や断面は、この世の何処にも存在しません。それでは、図面とは何か? それは、たまたま施工や見積りがやりやすいように考えられた道具に過ぎません。
手法その3−時間をデザインする、複数の視点でデザインする
デザインするのは屋根のかたちではなく覆いかぶさるような軒です。デザインするのは窓ではなくその先に見える緑です。デザインするのは手前の壁のエッジから微かに見える向こう側に広がる空間です。デザインするのは一瞬差し込む太陽の光を受け止める大谷石のゴツゴツした床です。

僕は、人間を合理的な動物ではなく豊かさに満ちた不合理な存在だと捉えています。僕は現実にしか興味がありません。何かを決めなくてはならないとき、常に「リアリティー」という天秤に掛けて判断しています。建築は生活を過剰にコントロールするものであってはならないと思います。生活を豊かにする可能性と発見に満ちたものであるべきでしょう。

建築家の技量は竣工当時の空間で計られるものではなく、住みこなされた空間で判断されるものです。僕は施主の竣工直後の「ありがとう」より、1年後の「ありがとう」が100倍も嬉しいのです。
住まいの話題[216]執筆者
■浅利 幸男(あさり ゆきお)/ 有限会社ラブアーキテクチャー一級建築士事務所

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