■住まいの話題[218]:都市に住みつづけるという選択
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蔵前の家
下町の台東区蔵前に住宅を設計する機会がありました。敷地21坪、高密度の商業地域に建つ住居ですが、快適に住むためのいろんな工夫がされています。建物中央に設けた4層を貫く外部の吹き抜け、3〜4階の居間部分の吹き抜け、トップライトを持つ階段室、5箇所のバルコニー等が、タテとヨコに連続し、視線が居住部分を通り抜けるように構成されています。この空間構成により、周囲にビルが建て込んだ後も、充分な光と風が将来にわたり確保されると同時に、視覚的な広がりを生み出し、敷地の狭さを感じさせません。

浅草・上野を中心としたこのあたりは昔から商業的利用が多く、活気に満ちている地域でした。都市計画的にもほとんどが商業地域となっており、事業用のビルが連なっています。また当時の活気を反映してか、お祭りなどの行事も多く、昔からの息づかいも聞こえてきます。

蔵前の家の周辺は、おもちゃの卸売りなどの問屋が多く建っています。幹線道路に沿って建つ10階前後のビルから内側に入ると、こういった中小のお店があるのですが、個人で営んでいる会社も多いようで、近年何となく寂しい感じがする地域となりつつあるように見えます。
都心で暮らすという意味
そんな新居に住みはじめた建主さんより、季節のたよりが届きます。小さな姉弟が法被を着て鳥越神社のお祭りの神輿を担いだよ。三社祭に参加したよ。今年も屋上に昇って隅田川の花火大会を親戚と一緒に見たよ。子供が少なくて統合になる小学校に今度入学するよ。等々。
蔵前の家外観:商業地域のため敷地一杯に
建っているが、内部にいろんな仕掛けが
蔵前の家内部:外部吹き抜け、内部吹き抜け
バルコニー、トップライト等を組み合わせた空間で構成
建主さんは、子供の時から大学卒業まで当地に住んでいましたが、ここ十数年は住んでいませんでした。十数年ぶりに戻った当地でも、一旦築かれたコミュニティはすぐに回復するようです。親の代より住んでいるという近所とのつながりは、新たに作るコミュニティよりずっと強いように思われます。それは、以前の生活が地域社会での助け合いやふれあいの上に成り立ってきたことによる「付き合いの濃さ」のようなものがあるからでしょうか。

バブル以降土地の魔法が解け、都心のマンションにたくさんの人が入ってきました。多くの場合、単なる都心利便性を享受し、住まいは寝室としての住居となり、生活感の希薄な住民が多くなってきているようです。かつて生活していた住民が土地を売り、他所へ移り、その後に事務所ビルでは成り立たない土地にマンションが建つという図式の結果です。

昔から築いてきた伝統的な習慣や行事を絶やさないことに意味を見つけるのは、それを失ったら二度と戻ってこないという点で重要です。なぜなら、地域での共同作業の少なくなった現代にとって、伝統的な行事はコミュニティ形成の手段として貴重な役割を担っているはずだからです。

都市の利便性を享受しつつ、土地固有の行事や習慣といった、引き継がれてきた文化を持つ生活と現代の文化を持つ生活が重なりあい見えかくれする厚みのある層を形成することにより、住民の暮らしにより深みのある魅力的な都市ができると感じています。それは、そのまま深みのある都市文化の形成に連なってゆくのだと思います。
都市に住みつづけるという選択
外部吹き抜け、トップライト、屋上緑化、外部バルコニー・・・等々、都心でも快適に暮らせる設計の工夫がいろいろとあります。経済優先の何が何でも容積一杯建てるという今までの設計ではなく、都市生活を豊かにしてゆくような仕掛けを持った、自分のための生活の場を都心にも設計する時代がきています。将来にわたり生きつづける建物は、そうした仕掛けを随所に取り入れて建てたものだと思います。
住まいの話題[218]執筆者
■大川 直治(おおかわ なおじ)/ 大川建築都市設計研究所

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