■住まいの話題[219]:シリアの住宅/日本の住宅
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世界最古の街ダマスクス
中近東から北アフリカにかけてのイスラム圏の住宅には中庭型の住宅が多い。学生時代に実測調査に参加したシリア・ダマスクスもその多くが中庭住宅であった。ダマスクスは現存する世界最古の街といわれ、数千年の歴史を持ち、聖書や千夜一夜物語にも登場するシリアの首都である。交易路の交差点として栄えたオアシス都市は、古代都市をベースにしながらも年代を経るとともにより複雑な街路を形成していき、都市型住宅としての知恵を結集して進化していった。ここではその中庭住宅の特徴と魅力の一端について記してみたい。
シリア・ダマスクスの中庭住宅
ダマスクスの住宅ではまさに中庭が全ての中心である。迷宮のような街路から住宅の中に入ると、そこはオアシスを思わせる設えになっている。殺風景な外観とは違い、内部は楽園の様に緑豊かな植栽と水をたたえた噴水が目を楽しませる。中庭の北側には半戸外空間イーワーン、南側には冬の居間が配置されている。1階にはその他の居室と水回り、2階にも居室が配されている。外部へと繋がる中庭はセミパブリックな性格を持つ空間であり、そこに面するイーワーンや冬の居間などもそれに準じた性格を持つ。そこから奥に行くに従ってよりプライバシーを重視する居室になっており、住宅の大きさによっては水回りも接客向けと家族用のものが分けられたりしている。

イーワーンは中庭と一体となり接客空間として位置づけられているが、象徴的な意味合い以外に機能的な側面も持つ。中庭の北側に配されているため夏場の直射日光が入らず、噴水により冷却された空気が入りやすいような工夫がされている。冬の居間は逆に暖かな日差しが室内に入り快適に暮らせるようになっている。季節の変化を居住空間の移動によって解決しているのである。
ダマスクスの中庭住宅:
中庭からイーワーンを望む
辻堂T邸:
リビングと和室の間に半戸外空間を挿入
ダマスクスの知恵を設計に
学生時代に異文化といえども豊かな住空間に接する機会を持ち、実際の設計をするようになってもそのよい部分を導入したいという思いは強く残った。辻堂T邸では中庭住宅ではないものの、街路に面して意図的に開口部を少なくする反面、玄関扉を開けるとその正面に眺望が開けるような配置にして外部との視覚的なメリハリを感じる設えになっている。そしてその開けた空間はイーワーンのように屋根のある半戸外空間になっている。リビングと和室に挟まれているデッキ仕上げの半戸外空間は、建具の開閉によって2室の緩衝空間的にも一体空間にもできる機能がある。視覚的にも室内空間に広がりを持たせ、実面積以上の印象を与えている。また梅雨時にも屋外を感じられる空間であり、物干場にも転用できるという実際的な機能も有している。
外を内に、内を外に取り込む
ダマスクスの住宅実測調査を行っているときに感じたのが、日本とは風土も文化も宗教も違う土地で培われたのに、共感できる要素が大変多いということであった。パブリックとプライバシーを重視する「奥」という感覚は日本にも通じる。また中庭という求心的な空間を中心に据えて構成される住宅には、機能性とデザイン的な面白みを感じた。

その時感じ、そして今でも自分の設計における大きな要素は外部と内部の関係性である。いかにその二つの関係性のバランスを取るかをいつも気にかけて設計している。視覚だけではなく機能的な面でも外部を住宅の内部に導入するような設えを考慮するようにしている。

厳しい環境のオアシス都市の知恵を、豊かで柔らかな自然を持つ日本の住宅に取込む。それは周辺環境をいろんな意味でコントロールするものであり、今の私の住宅設計テーマの一つにもなっている。
住まいの話題[219]執筆者
■鈴木 茂雄(すずき しげお)/ スタジオシンク

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