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| クライアントとの出会い |
我々小規模設計事務所の建築家は、特に営業はしないというか出来ないのが現状です。営業マンはいないのでホームページを立ち上げたり、雑誌に掲載されるなど、出来るだけ作品を目にしてもらう機会を設けて出会いを待っています。
そんなある日、唐突に話が舞い込んできます。電話か最近はメールが多いのですが、その時は「よし来た!」と気持ちが高ぶります。そして返事のメールに失礼はないか何度も読み返し、送信ボタンをおそるおそるクリックしたりしています。「建築家は敷居が高い」といわれていますが、逆に「クライアントは敷居が高い」と思っている建築家も多いのかもしれません。
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| 「条件」より「ヴィジョン」を決め手に |
敷居をまたぐと今度は、最初のミーティングまで期待と不安が入り交じる日々を過ごします。「自分の作品を気に入ってもらえるかな? どんな感性の持ち主なのだろうか? どんなお仕事をされているのだろうか? 趣味が合えばよいな・・・」など思いをめぐらせます。なんだか見合いみたいに聞こえるかもしれませんが、まさに見合いでしょう。一つの住まいを作るにはクライアントと建築家との信頼関係を長きにわたって維持していかないといけません。健やかなる時も病める時もです。
第一印象が好印象なら、今度は具体的な住まいの話になります。「15畳くらいのリビングと6畳の個室を2つ、出来るだけ収納は多く、あとローコストで・・・」というのは定番のように耳にします。見合いで言うと、経歴・年収・身長などの「条件」となるのでしょうか。しかし、ただそれだけでは相手を決められないでしょう。趣味・センス・夢など共感できるものがないと「ものたりない」となってしまいます。住まいでも「ものたりない」ものでは幸せを感じることができません。
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| 自然と一体に暮らす |
浴室を楽しく |
| ですから、私は出来るだけクライアントの夢とかを聞き出そうとしています。それはクライアントが持つ生活シーンのイメージの中に潜んでいます。たとえば「自然と一体に暮らしたい」とか、もっと具体的なところでは「お風呂に楽しく入りたい」とかです。こちらからも新たにイメージを提供して議論していくうちに、住まいに対する「ヴィジョン」がみえてきます。その「ヴィジョン」を共有できると、見合いは成功でしょう。
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| 「ヴィジョン」から「条件」へもどる |
「条件」をまず満たしてから「ヴィジョン」もなんとか確保していこうとするのが、通常の方法かもしれません。ですが、逆に「ヴィジョン」から元の「条件」に戻っていく方向で考えるほうが、より良い住まいになる場合が多々あります。なぜなら「ヴィジョン」にはクライアントの夢があり、オリジナリティがあり、それが住まいの特徴になるからです。
「条件」は子供の成長とか、時間と共に変わっていきます。ヴィジョンを保持し続け、条件をクリアして出来た住まいでは、理想の生活「シーン」が実現できるでしょう。私はその「シーン」のための環境をデザインしていくことが、設計の作業ではないかと思っています(もちろん条件、特にコストをクリアする作業の方が労力を要しますが)。
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| あらたな「シーン」を期待して |
「ヴィジョン」をもとにして、個々の「条件」を満たす設計、監理を経て、住まいのかたちが見えてきます。そして、そのかたちの中に、最初に議論した「ヴィジョン」が具体的な「シーン」として見えると確信した時に、私は何とも言えない達成感を覚えます。
そしてさらには、竣工後そこにクライアントが住まうことによって、私もクライアントも予想しなかったあたらしい「シーン」が生み出され、生活がさらに豊かになる。そんなことも密かに期待しています。
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住まいの話題[224]執筆者
■森吉 直剛(もりよし なおたけ)/ 森吉直剛アトリエ |