■住まいの話題[231]:私の仕事場
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打合わせのようす

設計はいつも地道な作業。打合せのときには、聞き役をこころがけている。できるだけ頭のなかは空っぽにして。

設計をはじめる前に、施主に必ずお願いすることがある。まず要望を思いつくまま書いていただく。気になることや、どんな小さなことでも。箇条書きにしてA4用紙半分のこともあれば、2枚、3枚びっしり連なることもある。すべて実現できればいいのだが、予算や敷地条件もあってなかなかそうもいかない。

そこで今度は「いるもの」と「いらないもの」の整理。Aは絶対いるもの、Bはどちらともいえない、Cはなくてもいいか・・・。そう、自分の考えに優先順位をつける作業である。ざっと整理ができたら質問してみる。「この項目はどうしてAですか?」、「例えばこういうものは必要ないですか?」。できることはできる、無理なことは無理、アドバイスを交えながら小さな判断をこつこつ繰り返す。

こうしてでき上がったリストをじっくりと時間をかけて眺めるのだ。ごくあたりまえの作業のようだが、設計の醍醐味はまさにこのスタート地点。議論を重ねたリストには、おのずとその人の美意識や価値観がにじみ出ている。楽しみなのは、ときどき言葉であらわせない「夢のようなもの」が隠れていること。おもしろくなるかもしれないぞ・・・。私にとっても、ちょっとしたわくわくの瞬間だ。

事務所を兼ねた住まい

事務所は築34年になる中古の木造建売住宅で、10坪ほどの敷地に住まいも兼ねている。1階は事務所、2階が住まいで、週末には妻のアトリエとしても活用している。唯一、階段が仕事と生活の場を分ける境界で、よくもわるくも通勤時間は10秒。

自由格子の家:収納を兼ねた小屋組み補強 自由格子の家:格子を覆い始めた外壁のツタ

6年前の引越し当時は空き地が目立ち、地上げの後の廃墟といった趣きだったこの街も、六本木ヒルズの開発をきっかけに刻々変化している。とはいえ、通りを少し入ると今も静かで緑の多い住宅地だ。秋祭りをはじめ地域の交流も盛んで、むかいの路地には八百屋や魚屋の軽トラックが露店を開き、夕方になると豆腐売りの笛の音が響く。

手狭で老朽化した我が家は、幾度かの改修工事をほどこして現在の姿に落ち着いたところ。以前の住まいから移しかえたツタもしっかり根づいたようで、外壁ばかりか屋根まで覆いはじめた。

身軽なくらし

改修したのはおもに作業スペース。老朽化したアトリエの小屋組みを補強して、絵や模型をしまう収納としても利用している。雨漏りの際は外壁をはがして修理し、ついでながら西日よけの格子を取りつけツタを這わせた。また屋根には穴をあけ、屋上デッキを設けて緑を育てている。水やりしながら辺りの景色や夕陽を眺める気分転換の場所でもある。

生活機能は持ち物を少なめにして最小限ですませている。書庫が足りないのは難点だが、調べ物は近所の図書館やネットを利用。近頃は夜間に利用できる展望ライブラリーもできた。ホームシアターなどもちろんないが、散歩をかねて映画館にでかけるのは夫婦共通の楽しみ。道すがら立ち寄る公園やカフェは格好のリビングだ。食事が好きな妻は料理もまめだが、流し台の巾はわずか180cm。それでも日ごろの家庭料理であれば十分らしい。片づけ役の私にとってはむしろ好都合。たまには街で外食もいい・・・などなど。

いろいろな機能を詰め込まなくても、地域の環境や施設を利用すればそれなりに補ってくれるものだし、なにより身軽だ。わが家にとって変わらず必要なのは快適な仕事場とアトリエだけ。家の中身は軽いほうがいい。

打合わせのつづき

「いるもの」を造りつけ、「いらないもの」を省いて、自分たちにあった生活を手探りしている事務所兼用の住まい。打合せのときにはありのままの、簡素な姿をご覧いただきながら話に耳を傾けている。

住まいの話題[231]執筆者
■乗富 久哉(のりとみ ひさや)/ 乗富久哉建築設計事務所

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