■住まいの話題[232]:着心地感のいい家を求めて
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いい住宅?
「いい住宅」ってどんな住宅だろうか、と時々考える。時々というのは答えが簡単には出ないし答えはいくらでもあるからだ。誰にとっていい家なのか。施主の断片的な思いをまとめた思い通りの住宅。建築家の発想がストレートに具現化された住宅。施工に携わった職方が納得出来る手仕事を終え誇りに思える住宅。

もちろんどれも大事なことだけど、各々が実現出来たからといって「いい住宅」になるとも思えない。すなわち、各々にとって都合のいい住宅ということではなく、施主・建築家・施工者がうまくかみ合い、その結果産み落とされた住宅が長い時間経過した後まで一本筋が通って、その本質(魅力)を残していることが一番大事なことだと思う。

建築家の立場として出来ることはそう多くない。設計の作業は周辺の様々な環境と与条件を読み解き、そして完成後長いタイムスパンで存在する建築のあるべき姿を施主とやり取りする過程で、シミュレーションとスタディーを積み重ね、ていねいに編み上げていく作業だ。

施主の思いを下地に、建築家が構想し施工者と共に造り上げる住宅は互いの信頼関係が大きく影響するし、現実に計画が始まればきれいごとだけでは決して済まされないトラブルや現実に直面することもある。だが、あくまでもフェアに対応する姿勢をいつも心掛けている。おそらくそんなたくさんの積み重ねが「いい住宅」を作るための一つの過程なのだろう。
着心地感のいい住宅
建築を作る行為は、そこの空気を作ることだと思っている。空気というと非常に曖昧な様だが、特に住宅を作ることはどんな建築よりも人の人生の無意識より深いところにかかわる環境をつくることである。しかも、住宅が完成し実際に生活を始めてもなんら変わらぬ空気感、すなわちそこに存在して見え隠れするその住宅の本質(魅力)こそ、大きな影響力がある。

たくさんの積み重ねが「いい住宅」
を作るための過程なのです(O-house)

あなたの家にはお気に入りの
場所はありますか?(T-house

人間は順応性が高いからどんな環境にも生活を馴染ませてしまえる。だから、その空気は生活を強要する様なものではなくて、普段気軽に着るお気に入りの服の様な存在であればいいと思う。きっとそれが身体で感じることが出来るお気に入りの空気感がある家、すなわち「着心地感のいい住宅」といえる。
記憶の中の住宅
住宅について考える時、ふと記憶によみがえる家がある。今でも鮮明に記憶している幼少の頃に過したその家は、屋根までの高さがある乱石貼りの境界壁を共有して隣家と連なっている長屋の様な造りで、その2枚の壁に挟まれた奥行の深い敷地に部屋と中庭や池が互いに入れ違いに配された家だ。

ひんやりとした石の床、上の方を風が吹抜けていく高い天井、中庭の池に反射して天井で揺れる陽光、孔明きレンガの日除けスクリーン越しに見える中庭に差し込む南国の強烈な日射しと日陰のコントラスト、どの一瞬も各々の空間と共に記憶している。腕のまわり切らない程太い幹のくぼみに脚を掛けてよじ登った庭の大樹、そこから飛び移って裸足で駆け上がった赤いレンガ屋根の形、足の裏のざらついた感触も記憶している。

エアコンは故障が多く、雨期の終わりには庭の土の中から羽根蟻の大群が涌いて来て、床から窓の網戸、壁、軒天井へ小川の流れの様に登り、音をたてて夕方の空に向かって雲の様に舞い上がって行くこともあった。キッチン、風呂、洗面といった現代の日本の住まいで重視される設備のスペックは、ほとんどこれといえるものは無い数値的評価が出来ない家だ。

だけど、快適に過ごすために建築的な仕掛けがいろいろ施されたその家は、両親はさておき私達小さな兄弟にとって家中絶好の遊び場だったし、あちこちにお気に入りの場所があった。

今年の夏、記憶を追って地図を片手にその家を訪ねてみようと思う。今の私にとって、何かかけがえのない発見があるのではないかと楽しみにしている。
住まいの話題[232]執筆者
■岩佐 周明(いわさ ひろあき)/ 一級建築士事務所 岩佐設計工房

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