■住まいの話題[239]:ドラマ製作と住宅づくり
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さて、これまでとてもたくさんの方々がアーキテクトの立場から住宅設計にまつわることを書かれていますので、息抜きで少し毛色の違ったことを書いてみましょう。
私の父
最初に、私の亡くなった父の話を少しいたします。私は今まで、ことさらに仕事の上では父の話をしないようにしてきたように思います。それは父の仕事がイメージの強いものだったので、先方にある種の先入観を持たれるではないかという考えがあったからかもしれません。

父は小川英というペンネームで仕事をしていたシナリオライター(脚本家)でした。デビューは日活アクションですが、主な仕事はTVのシリーズもので、『太陽にほえろ!』のメインライターであった他時代劇も多く、生涯本数は2000本弱だったと思います。

『太陽にほえろ!』のころには、週に数回は真夜中に二人組の(悪者のようですね)プロデューサーの方々が自宅に見えて、延々と父と議論を戦わせていました。(私の)子供部屋の隣室で「殺し方が違うよ」だの「濡れ場はだめだってば」だのを明け方までやっているわけで、プロデューサーの方は私の受験勉強が心配だったようですが、こちらは面白くて壁に耳をひっつけて聞いていたわけです。
父の『13日金曜日マカロニ死す』原稿 私の『田浦の家』スケッチ
建築設計
父の仕事は私と全く違います。ところが最近になって、実は自分は父と似たようなことをやっているのではないかと感じることがあるのです。"脚本"とはドラマを創る上での"設計図"のようなものですから、それ自体は不思議なことではないのですが、考えると周囲の関連性がよく似ています。少し大きめの建築工事になぞらえると、「建築」と「テレビドラマ」の関係はこんな風でしょうか。

施主=スポンサー。ディベロッパー=プロデューサー(TV局)。建築家=脚本家。現場所長=監督。 
職人=スタッフ(キャメラ、照明、etc.)。建築材料=キャスト(俳優)。利用者=視聴者。

役者さんだけがかわいそうに「モノ」になってしまいましたが、よく対応します。その上、施主やディベロッパーと私、現場所長と私、それぞれのやりとりが濃密に熱を帯びるほどにその建築は良いものになるような気がしますし、そのあたりも父とプロデューサーの話によく似ているのです。
個人住宅
さて、個人住宅について上記の関係を考えると少し違うことに気がつきますね。個人の住宅では施主とディベロッパーと利用者が同じ人になります。つまり、ご自分の住宅を造るということは、スポンサーの圧力や視聴率の数字のことを気にせずに監督や脚本家を雇ってTVドラマを創るようなもので、建築家から見ると「とても幸せな立場の方々」なのです。そのような幸福な気分で「仕事」にあたれば、きっと素晴らしいものができあがるに違いありません。

え? ご家族の中にスポンサーも視聴者もいるぞ? うーん、確かに。しかし家族ですからきっと一緒に楽しむことができるでしょう。楽しむコツは、陳腐な表現ですが、相手の身になって考えること。単に相手の意見に合わせるということではなく、その人がそこに居るシーンをイメージすることだと思います。

実は、それは建築家にとっても同じことで、それがうまくできたときにこそ良い建築ができあがるのだと感じています。つまり、住宅に限らず建築には様々な人間が関与しますが、最も尊重されるべきは、先の対応関係の最後に記した「利用者」の視点であって、利用者の幸福がその他の全ての人達の幸福の原点だと思うのです。これはあたりまえのようでいて、意外と忘れられがちなことでもあります。
住まいの話題[239]執筆者
■小川 真樹(おがわ まさき)/ 小川真樹建築綜合計画

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