■住まいの話題[249]:にじんだ輪郭線
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庭と表通りの間にうまれた表情
かつて自宅兼設計事務所として、古い戸建て住宅に暮らしたことがあります。そこには、タブノキやスダジイ、ナツミカンやキンモクセイが繁茂する庭がありました。道路に面したフェンスにはアイビーがぎっしり絡まり、庭と道路を分け隔てていました。

最初の1年が過ぎた頃、方々から頂いた草花を植え込んでゆくうちに、ジメッとした庭の風通しを良くしたいと考えるようになりました。また、家にいる時間が長い私たちにとって、表通りと何か関係を持ちたいという漠然とした思いも重なり、プライバシーや防犯上の不安はありましたが、アイビーとフェンスを取り去ることにしました。

すると、以前に比べ庭に風が通うようになり、期待どおり緑が元気になったように感じました。けれどもそれ以上の変化として、近所の方から話しかけられることがとても多くなりました。どちらかというと荒れ放題の庭でしたが、たまに草むしりをしていれば「暑いですね」と声がかかり、花が咲けばその花の思い出話までして下さる方があったり、実がなればオレンジピールの作り方からそのラッピングの仕方まで教えてくださる方があったりと・・・。

そのような体験から、誰もが受け入れやすい草花の力を改めて感じることとなりました。と同時にフェンスを取り去って周りの家々とは異なるオープンな庭にしたことが、私たちの生活の「表情」として受け入れられたようにも実感しました。
アイビー・フェンスを取り去った庭 会話を誘う草花
高齢者施設―居室入口の表情
建築設計の立場から、高齢者福祉について研究していたことがあります。特別養護老人ホームの入居者の部屋の入口には、たいてい氏名を書いた「プレート」が掲げてあります。このプレートをそれぞれの入居者が「表札」をつけられるようにしたり、更に進めて「表札スペース」として小さな空間を設けたりすると、入居者はそれぞれが独自の飾り付けなどを始め、その部屋を「自分だけの場所」とする認識を強めることができるという調査報告があります。

自宅を離れて施設に暮らす高齢者は、概ね均質な施設内の部屋に対して「自分の場所」という認識を持ちにくいものです。しかしながら、そこでの生活がほとんどの彼らにとっては、施設内が唯一の「社会」となることが多く、その部屋に面する施設の廊下というのは、地域社会でいえば「通り」のようなものです。

そう考えると、「社会」に対して住み手の「表情」が浮かび出る場所を設計側で用意することは、たとえそのスペースが小さくとも、大切なことだと気付かされます。
表情のある輪郭を描く
私たちが住宅の設計をするとき、何らかの方法で住み手の雰囲気が外へにじみ出るようしたい、という思いがあります。ある意味において「個性的な家」ということに通じるものですが、あるかたちに生活をはめ込むものではありません。目に見えない生活に「家」という形を与えるときに、住み手の「表情」が感じられる家をつくることです。

このことは、住み手と地域の双方にとって健康的なことではないでしょうか。実際には周辺環境の制約を受けることも多く、表情の持たせ方も様々になりますが、それぞれの状況に一番ふさわしい表情を見いだすことは、家づくりにおいて重要なことだと思います。

設計とは、動かない一本の輪郭線を選ぶことです。私たちは、その線の上を住み手と何度も指でなぞり、いつしかにじんでしまったような、住み手の表情がうつされた「にじんだ輪郭線」で「すまい」を描くことを大切にしたいと思っています。そして、入居後、住み手自身による家の表情づくりが、それぞれのかたちで続くことを楽しみにしています。
住まいの話題[249]執筆者
■赤桐 雅子(あかぎり まさこ)/ 赤桐雅子+西田雄一建築設計事務所

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