■住まいの話題[260]:風景のシナリオ
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風景

仕事で東京を離れるたびに、訪れる土地を走っています。ルートは定めず、1時間で10キロ。見知らぬ街を駆けるこの小さな旅で、僕は自分の呼吸を聴きながら、背後に消える風景を束の間の記憶につかまえ、そこに様々な想いを巡らせてみます。

その土地の眺め方を僕の体が理解しはじめるまで、約10分。視線はようやく、この未知の風景と交わります。それから少しずつ、そこに生きる人々の日常の息づかいが、見えてきます。60分間の旅が終わるまで、僕は風景の破片をかき集め、生活の情景を繋ぎ合わせて、大きく一つに連なる「風景のシナリオ」を見つけことを、楽しんでみるのです。

風景のシナリオ
風景という大きな枠組みで考えると、私達が日常経験する無数の空間や出来事が、互いにゆるやかに関係を持ち、途切れることなく連続していることが解るでしょう。風景をつくる小さな単位の一つである「家(家族)」も、この「風景のシナリオ」のなかでは、その外と内に向けて大きく開かれ連続しています。私達一人一人は、外側の大きな社会と個別の関わりを持ち、同時に、内に向けては家族の一員として互いの未来に深く関わりを持ちながら、大きなシナリオの中を生きているのです。

最近、この「風景のシナリオ(空間と出来事のゆるやかで複雑な連なり)」という、大づかみだけれど建築の専門家でなくても感覚しやすい「場の見方」に関心を持ち、その建築計画への利用を試みています。時間の経過とともにゆるやかに(そして自律的に)様々な空間と出来事が連鎖する、このダイナミックなシナリオ生成のシステムを、建物や都市を考え計画するための方法として採用してみる実験です。以下に一つの例を紹介しましょう。
語られ、引き継がれる出来事のシナリオ イレギュラーなnLDK配置
シナリオの建築
ある国際美術展で、数社の住宅メーカーと地元市民を参加者にワークショップをおこないました。それは、メーカーの標準的な建売り住宅を素材にして、私達の見慣れた「nLDK」型プランが、現在そして将来の家族の生活にどれほどの対応の可能性を持つものかを検証する目的を持つものでした。

そこでは、参加者は、一人一人が住宅の各空間(各個室、廊下や階段など)の役柄を演じ、そこに暮らす家族の一日の生活のシナリオを連想形式で編み上げることを試みました。参加者から参加者(空間から空間)へと物語が語られ引き継がれるシナリオ生成のプロセスでは、各空間の登場頻度や役割に少しずつ偏りが生じ、同時にその形や構成そして機能や名前にも逐次変更が加えられてゆきました。

これは、優れたデザイナーが優れた「非nLDK」をあたらしく提案するやり方とは異なり、私達の目の前のありふれた居住空間(nLDK)を、複数の人材の経験と想像が連鎖する力(「風景のシナリオ」の力)で「再生」と「進化」の方向へ誘導する、開かれた立場に立つ空間のつくり方の試みでした。ここでは、原型の「nLDK」は、現実的な生活に根差した想像に依る「風景のシナリオ」に導かれながら、意図せず無数のイレギュラーな空間を生みだし、さらにはその内と外の二つの世界のシナリオに同時に属する空間となり、その進化の可能性を強く示しました。
郊外へ
東京では、郊外をよく走ります。派手な空間や出来事を見つけにくい郊外の住宅地を駆けるのは、やっぱりとても退屈です。この場所を長い時間走りつづけるためには、体力以上に、まずこの退屈さを乗り越えるための知恵をもたなくてはなりません。平凡な日常の眺めに挫けてしまわぬよう、そこに豊かな空間と出来事を見つけ、その劇的な連鎖を多く感覚できる、そしてその「風景のシナリオ」を即興で編みまたそれを読み解くことのできる「建築の知恵」が、私達には必要なのでしょう。
住まいの話題[260]執筆者
■岸 健太(きし けんた)/ 岸建築計画室/LWL (Lab. for the wonderlandscape)

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