■住まいの話題[271]:目に見えないもの
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世の中には直接目で見ることのできるものと、見ることのできないものがある。建築の設計においてもそうである。施主が建築家に設計を依頼した当初、施主の頭の中にあるイメージを建築家が設計図や模型、パース等により具現化していく。施主のイメージは目に見えないが、建築家の感性や経験により見ることのできるものになる。この時点でも100%目に見える訳ではない。建築の経験の無い施主にとっては、まだ全くと言っていいくらい最終形(実際に建つ我が家)が分からない状態かもしれない。施主と建築家の間においてもこんな状態である。建築の設計段階においては、建築家の他に、構造設計者、設備設計者、時には照明デザイナー、造園設計者等多くの設計者が関わっている。目に見えないものの方が多いかもしれない。
構造設計
この中で、私の携わっているのが構造設計である。施主(というか建築関連の人以外の人)にとって構造設計というのは耳慣れないし、内容を理解されている方も少ないと思う。構造設計が担当するのは、建物を建設しようとする場所に応じた基礎形式の選定、構造形式(木造、RC造等)の選定から始まる。構造形式は施主の強い要望であったりもするが、コスト的に実現不可能な場合もあり得る。実現可能なものを選定する際に助言するのも重要な役割である。そして、この基本方針に基づいて空間を構成する柱やはり、壁、床の配置、サイズを建築家と共同して決定していく。この設計活動はほとんどの場合、施主からは見えない。施主に示されるのは、共同して決定された空間であり、空間を構成する下地(構造材)はあまり気にされることはない。柱、はりをむき出しにした空間でもない限り、下地は永遠に目に触れることはない。下地は目に見えないものになってしまう。だから構造設計という活動に気が付かない。だからといって、やたら構造(下地)を主張して、空間の心地よさとか緊張感を邪魔してはいけないと思っている。さりげない気遣いの方が大切だと感じる。
目に見えなくなるもの:
鉄筋コンクリート造、木造。
目に見えるもの:
仕上げ兼用の構造材、2×10材。
ツール
何も設計活動だけが目に見えない訳ではない。設計活動、特に構造設計の中で使われるコンピュータソフトウェアも、その内容はブラックボックス化されていている。設計者の技量に関わらず何らかの答えを出してくれる。これは、高度に専門家された各分野(鉄、コンクリート、木等の材料の分野や構造形式ごとの設計手法の分野等)を熟知できなくなっている現状による。設計者は日々設計活動に追われ、新しい研究結果や設計手法を1から10まで全てを理解できなくなってきている。しかし、これは設計者(構造)の自己都合的言い訳に過ぎず、施主や建築家には何ら関係の無いことである。施主や建築家にしてみれば、構造の専門家に依頼しているのだから100%の答えがいつも返ってくると考えるのは当然である。

でも100%の答えを出せることの方が少ないのではないだろうか。特に、経験の少ない形式の空間を作る場合などは試行錯誤的な場合が多い。何か新しいものにチャレンジする場合には、十分なリサーチと過去の経験に基づく判断なくしては何も実現できない。いろいろなことにチャレンジしたいから目に見えないもの(分からないもの)を、目に見えるものにしていく継続的な努力が必要だと感じる。私は可能な限り自分で作ったソフトウェアを使って設計するようにしている。こうすることにより、無理にでも努力しなければならなくなる。
材料
構造設計の分野に限ってみると、構造(柱やはり等)を形成している材料の中にも目に見えないものは多々ある。鉄は代表的な材料で、鉄骨造ばかりではなくその他の構造でも多く使われている。その鉄でさえ多くの機能を取り込んだ鉄が作られている。この機能は、表面から見ても見えない。見えないけれども建物の構成要素として使っている。でも安心できないから間接的に材料の中身を見ようとしていろんな実験をして確認する。鉄と同じようによく使われるのがコンクリートである。コンクリートはもっと分からない。作っているのは、それぞれの現場の近くにある工場である。でも工場にはいろんなグレードがある(認可上はグレードなんか無い)。目に見えないグレードを設計者が見極めなければ、これから建てる施主の財産(建築)がただのゴミになってしまう場合だってある。これらの材料を使って実際の建物を施工していく施工者の技量も目に見えない。過去の実績等から想像するしかない。

このように、建築の設計では、目に見えなくても判断しなければならないことがたくさんある。
住まいの話題[271]執筆者
■西薗 博美(にしぞの ひろみ)/ (有)西薗博美構造設計事務所

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