■住まいの話題[280]:機能を開放すること
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部屋の足し算
設計を依頼され、土曜の午後から建築主さんのご自宅へ向かう。初めての打合せで、新しい住まいに対する要望を聞くところから話をはじめる。

「キッチンはオープンキッチンで、リビングダイニングはあわせて20畳くらい。2階には子供部屋と夫婦の寝室のほかに納戸が必要。駐車場はビルトインで外部から使える収納があれば・・・」

多くの建売住宅や分譲マンションが、4LDKで2900万円といった謳い文句で売りだされる。それに慣らされている我々は、住戸全体の面積がそれほど変わらなくても、4LDKが5LDKになっただけで、そのマンションの価値が上昇したような錯覚を受けてしまう。

それは、リビング、ダイニング、キッチン、子供部屋といったひとつひとつの部屋の足し算だけで建物を評価しようという発想が一般的になっているからかもしれない。リビングではテレビを見てダイニングでは食事をする、といった設計初期段階からの「決めつけ」がおこなわれ、それらの部屋が合わさったものが「普通の生活なんですよ」と購入者に示されている。
開放的な建築をつくりたい
先日、タイのバンコクを訪れる機会があった。バンコクでは他の東南アジア地域と同様に、屋台形式の店が道路上のいたるところに見うけられる。日本の屋台とは違い、屋台自体が歩道上に点ではなく線、あるいは面として存在する。歩く人はまるで店の中を突っ切るような形で前に進まなければならない。どこからが店でどこからが道路なのかの意識が希薄で、それがアジア的といってもいい。

開放的な建築というと「外のように感じる部屋を持つ建物」「天井の高い部屋のある建物」という意味に捉えられる。その点では、タイの屋台も開放的な建築(内部的な外部空間?)といっていいかもしれない。しかし、それ以上に「機能」に対して開放的な空間という側面を強調するならば、ここでは「歩道という機能」がそれだけで閉塞されるのではなく、「食事をするという機能」に開放されている。
テーブルを上から見る 空間の中のテーブル
以前設計した住宅に、かなり大きな集成材のテーブルをデザインした。引越しをしてから少したって建築主さんとお話をする機会があったのだが、大きなテーブルがことのほか「使われている」という。テーブルの右側ではお父さんがパソコンに向かっている。同時にテーブルの左側では娘さんが漫画を読んでいる。たまたま2.6メートルというテーブルの長さが、お互いが同じテーブルにいながらもちょうどよく心地よい距離感を保つことを可能にしてくれていた。この家のダイニングテーブルはただ「食事をするためだけの場所」という限定はなく、いろいろなことをする場所として開放されている。

設計をするときに「ここにテレビを置いて」「ここにソファーを置いて」「ここには今使っている食器棚を置くことになる」といろいろな想定(限定)をしてしまいがちだ。できることなら、このような想定(限定)はあまりしたくない。それは誤解を恐れずにいえば、想定(限定)してしまっているその瞬間が「たかだか設計段階」だからである。その後何十年も暮らしていく家に、設計段階の想定(限定)がどれほど残っていくものなのか? これまた誤解を恐れずにいえば「自信がない」。

であるならば、できるだけ1つに機能を限定しないですむ懐の広い空間を作ることを目指すべきではないか。もちろん敷地条件、周辺環境、家族構成もあるから、単純に長方形の間取りを作るということと違うのはいうまでもない。

アジア人である我々が先天的に持っている2つの感覚「空間のオープンさ+機能のオープンさ」。この2つの感覚を念頭において設計することで、その空間が幾重にも豊かな空間になる。そしてその一粒で二度でも三度でもおいしいプランを“懐の広いプラン”とすれば、最終的には住む人が独自に空間の使い方を「発見」していくことにならないか。しかも、住みはじめてから設計者の影が薄ければ薄いほど、よいことにはならないか。
住まいの話題[280]執筆者
■東 信洋(あずま のぶひろ)/ space fabric

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