■住まいの話題[296]:天井高の魔力
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プロダクトとしての住宅
05年に設計を行ったなかでいつもと違う経験を得る機会に恵まれました。それまでの設計では、使用者とお施主さんが同じ場合が多く、物事を決めていく段階で、お施主さんの希望を聞いて設計を進めていくことが常でした。しかし今回は分譲住宅の設計ということで、建物の住人の顔が見えないまま設計を進めるということとなりました。今回のデザインを決定する途中で私たちが得ることのできる感覚は、これまでの住宅をデザインすることから生まれてくるそれとは異なり、いわばお店などで売られている買い手のわからない“製品=プロダクト”を作っている感覚に近いのではないかと感じました。

使い手の顔が見えないと言うことは、最大公約数を求める作業に近く、当然のことながら、特殊解は敬遠される傾向が強くなります。今回設計を行った、ある地方のハウスメーカーの社長さんは、プロジェクトの一番はじめの打合せでこう切り出しました。「東京では購買希望者が100人いたとしても、ここでは10人になってしまう」と…。つまり特殊解に興味を持つ人がいることはいるが、分母の人口そのものが少ないと言うことは、売れ残る危険性も高くなると言う訳です。この打合せから、どこからが特殊解と判定されるかの、境界の線引き合戦が始まることとなりました。
その場所の性質に合った天井高
住宅を例にとれば、ダイニングの様に椅子座がメインの空間で、そこで食事をするという明確な主目的が生じる場所もあれば、リビングのように何をするでもなく、のびのびとリラックスをしたいという空間もあるでしょう。また、寝室では快適な環境で包まれるように眠りたいとも思うはずです。そのような、場所で行われる行動の性質を考慮して、天井高を考えると、天井高がどの部屋も一定ということはおかしいと感じるはずです。リビングはせめて何畳必要ですという最低限の大きさではなくて、快適な空間を作り出すための最適天井高というものが存在するのではないでしょうか。
「若木コートハウス」4号棟:
高低差のあるリビングダイニング
「若木コートハウス」1号棟:
吹き抜けに面したダイニングからリビングを眺める
一般に売れる住宅を模索する建売住宅の方々は、天井高を高くとって欲しいと要望することが特に多い気がします。“天井高がある=豪華な感じ”という公式が脈々とつながっているのです。先述の地方のハウスメーカーさんも始めは1階の天井高として2m60cm程を希望しました。そこで私は「2m10cmが部屋中を支配するのであれば問題。それは息苦しい空間になるのですが、そこに3m程の天井高のある空間や、吹き抜けに面していたらこの低い天井は気になることはなく、かえって魅力的な空間になる」とお話ししました。このことを実際に知って頂くため、ハウスメーカーの社長さんに我々が設計した住宅を実際に見て頂きました。
「若木の家」における試み
ご案内差し上げた「若木の家」では、小さなリビングダイニングを単調な一室空間に感じさせないために、ダイニング側の天井高を低くし、リビングを高くし、双方の床には階段4段分の高低差を設けています。そうすることによって、床面積的には狭い住宅でありながら、室内で視線が交わることを回避し、更に空間的な変化を持たせて、部屋の狭さを緩和することに成功しました。そこに存在する天井高の低いリビングは全く窮屈さを感じることはありません。これを見て、ハウスメーカーの社長さんは始めて、数値のみによる天井高の固定概念を払拭できたようです。
平面ではわからないことがたくさんある
私たちは建築を考えるときに、常に模型とにらめっこして全体を決めています。新しく家を建てる場合には、平面の大きさに敏感になるのではなくて、天井高を含めた空間全体の多様性に敏感になるようにしてみてはいかがでしょうか。

そんな思いがお施主さんに伝わるように、事務所内では次回打合せのために、今も模型を作って、スケッチブックにたくさんのパーススケッチを描いています。
住まいの話題[296]執筆者
■北川 卓(きたがわ たく)/ キタガワ+マツモトスタジオ

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