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| 若い美容師夫妻が独立してお店を開くための、内装設計のお手伝いをしました。彼らは、すべてのお客様に貸し切り状態で寛いでいただきながら丁寧に施術できる「自宅の居間にお招きするような美容院」を考えておられました。以下では“住宅のリフォーム”にも通じる、この美容院改装の一端を紹介したいと思います。 |
| ボロビルからの出発点 |
美容院のために彼らが借りた築30年の2階建ビルは、お世辞にもしっかりした建物とは言えませんでした。雨漏りが目立ち、鉄骨柱は錆び、設備は旧式です。限られた予算の中では、最低限の体裁を整えるのが精一杯で、自宅の居間どころではありません。ただ、良い味わいがあるのは確かでした。横浜桜木町商店街のはずれの賑やかすぎず静かすぎない立地、大きな横長窓のある外観の静かな存在感、そして2階に借りた部屋に階段で上がる住宅的な感覚。彼らはそこに理想のお店のイメージを重ねていたのです。
普通にきれいに整った内装を目指していては、とても希望されるような空間にはならないと考え、手を掛ける部分を絞ろうと提案しました。彼らにとって何が大切かを考え、それを集中してデザインする以外はボロのままでも何とかなる、という割り切りです。では、自宅の居間のようなイメージにとって何が大切でしょうか? ヒントは彼らの将来計画の中にありました。西洋アンティーク家具が好きなお二人は、ひとつずつ好きなものを見つけては、それらでお店を飾りながら少しずつ気持ちの良い場所にして行きたいと考えておられました。
店舗の内装では、一般的には、お客様に見える部分のイメージを最初に完成させ、その後使い勝手に合わせて調整を取ることを思うと、彼らの考えはあまり普通ではありません。オープン時にはある意味、未完成でも良くて、とりあえずの出発点があれば、あとは時間を掛けて育てていこうというのですから。しかし住宅を作るときには、これはむしろ普通の考え方です。そこに、自宅の居間というイメージにとって大切なものを見ました。将来何が加わり、どのように空間が育つかは予想がつきませんから、成長し続けるためのベースを整えることが大切なのでしょう。 |
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建物の西側外観:1階の透光波板が目印。 中央部から入り階段で2階の美容院へ。 |
美容院の内観:大小の家具が 数珠つなぎに並び空間を緩やかに仕切る。 |
| 敷物のような床、ばらまかれた家具 |
そこで、二つの提案をしました。まずは2階にあった壁を取り除いてワンルームにし、その上にしっかりした床と腰壁を作ることです。好きな家具を置いて落ち着ける空間にしようというときに、床がしっかりしていなくては始まりません。元々の凸凹が目立つコンクリート床の上に、ぴんと水平なフローリングの床を張ります。それと同じ色に仕上げた腰壁には、壁の足下を傷や汚れから守る役割があると同時に、緩やかに囲われ落ち着いた雰囲気を作る効果があります。大きな敷物を部屋に広げたとき、その端がめくれて壁に引っ掛かっているような、足下を柔らかく包む空間のイメージです。
次に、敷物のような床の上に家具が大らかにばらまかれた状態をイメージします。ソファセットの下にラグを敷くように、敷物が空間のまとまりを作る効果がありますが、それを部屋全体に広げた状態を考えたのです。ばらまかれる家具には、彼らのアンティークの他に、水回りや収納としての機能を持ちアンティーク風に設計されたものも含まれます。全体としては家具が同時にばらまかれているように見え、機能的なものを殊更に設けたようには見えないので、ワンルーム空間に一体感が生まれます。これら二点を集中してデザインし、それ以外は既存のものを白く塗って統一感を得ることに止めました。 |
| むらのある場所 |
| 西洋アンティークはマホガニーやオーク材などで作られ、茶色に着色されていることが一般的ですが、一点ずつ色合いは異なります。そこで、床・腰壁・家具などの仕上げをそれらと似合う目の木材と色にした上で、その色を統一せずあえてむらをつくることで、新しいものが加わり全体が変化しても、むらの中に違和感無く溶け込み、空間が育っていくようにしました。オープンしてもうすぐ一年。お店が順調に成長するのと同時に、この空間は、一色で均質な空間には無い大らかさで、新しく仲間入りした家具たちを迎え入れながら育ってくれています。 |
住まいの話題[471]執筆者
■須川 哲也(すがわ てつや)/ (株)須川ラボ建築設計事務所 |