新しい建築のおおらかさを求めて

社会は今、多様性や寛容性を求めています。
その要請に建築家はいかに応えようとしているのか。
作品を通して探ります。

機能の転換を受け入れられる許容力

第6話

機能の転換を受け入れられる許容力

鈴野浩一 禿真哉 トラフ建築設計事務所

2018.12.03

多様性に富んだ活動で知られるトラフ建築設計事務所。「プロダクトから都市計画までフラットに考える」という二人の建築家にお話をうかがった。

2018年完成のプロジェクトのひとつであるアマゾンのスタジオについてからお話しいただけますか?

禿:アマゾンジャパンのファッション部門、Amazon Fashionの撮影スタジオ兼オフィス(Amazon Fashion Imaging Studio)ですね。既存の物流倉庫1棟、4フロアすべての改修プロジェクトだったのですが、天井高6メートルくらいの大空間で、床が全体の空間構成を決める重要な要素になっています。ファッションの撮影スタジオで、モデルやカメラマンがしょっちゅう来る場所ということから、エントランスではショーでモデルが歩くランウェイを光だけでフロアに表現しています。この建物に入るときに高揚感のようなものを与える、そういった空間の機能を光で表現しました。カフェスペースは、空間は繋がっているのですが、フロアを1段、2段上げることで場所を設えています。フロアの操作で空間を切り分けるという良い例ですが、これも天井が高いからこそできたことです。また、もともと物流倉庫だったのでトラックバースの段差が1.3メートルあったところを階段状にして、また異なる居場所をつくったりしています。既存のコンディションを生かして、仕上げを施し、空間化していった事例です。

【写真】Amazon Fashion Imaging Studio 品川区東品川 2018年

Amazon Fashion Imaging Studio 品川区東品川 2018年
写真:阿野太一

トラフ建築設計事務所の代表作のひとつとして「空気の器」が思い浮かびます。紙の可能性と限界をどのように感じていますか?

【写真】鈴野浩一氏 鈴野:建築のスタディは、スケールを下げて考えるしかありません。一方「空気の器」は、今は型で抜いてつくっていますが、当初は僕たちが手で切っていたので、1分の1で作品がつくれるという楽しさがありました。ただ、日本人にとって紙は身近な存在ですから、それに価値をつけて商品とするのは難しいのではないかとも思いました。これができた時、紙以外のアルミなど、いろいろな素材を試してみたのですが、やはりこのアイデアは紙の方が面白い。はかないというか、はかないからこそ丁寧に扱いながら、空気そのものを持っているかのような、そういうはかなさは、紙だからこそと思っています。また、二次元の平面をいかに三次元にするかという、建築家ならではのスタディもしました。プロダクトは、通常は機能から考えていくもので、僕たちも最初は平面だが荷物がふえたら広げて使えるエコバッグのような、もっと硬くて幅が広いものを考えていました。ところがスタディしていく過程で、1回機能を忘れてどんどん細くしていくと、ある限界値で自立したのです。それよりも、少しでも幅が大きいと、また、直径が大きいと立たない。最終的な幅は0.9ミリで、そのとき建築ができたと思ってスタディをやめました。当初、プロデューサーからは「面白いけど機能がないから売れないよ」と言われてがっかりもしたのですが、結果としてはその後いろいろなところで売られているのを見ると、やはり人が欲しいと思うのは、機能だけではなく伝えたくなるデザイン、驚きや感動を与えられるものでもあるのだなとつくづく思いました。特に日本を意識したわけではないのですが、外国人には、紙であるということが日本らしさにつながるようで、外国へのお土産になっていたりします。

【写真】「空気の器」2010年〜

「空気の器」2010年〜
写真:冨田里美

禿さんはどうですか?

禿:紙のデメリットのようなものをポジティブに捉えてみた結果だと思います。色がぱっと切り替わるのも、この紙の薄さならではの効果です。本当に0コンマ何ミリの違いで見え方が変わるのです。まさに、紙ならではの作品だと思います。

ガラスの可能性と限界はどのように感じていますか?

鈴野:ナイキのAir Force1というシューズの専門店、NIKE 1LOVEでは、曲面ガラスによるショーケースをつくりました。三保谷硝子店さん、イシマルさんと初めて協働したプロジェクトでもあり、とても印象に残っています。実は最初、四角いガラスのショーケースを考えていたのですが、三保谷さんと話すうちにシリンダー状になりました。さらに、シリンダー状のショーケースは2重になっていて、内側の一枚は引き戸でスライドできるようになっています。シューズを置く高透過ガラスのブラケットは、外側の円形ガラスにフォトボンドでブラックライトを当てながら、一枚一枚接着していくのですが、接合部に泡が出ないよう、また接着面に紙をあてて、隙間がないか確かめながら、慎重に300足分を取り付けました。この硬質で高精度なガラスが、空間のすべてを決めていたと思います。

【写真】NIKE 1LOVE 渋谷区神宮前 2007年

NIKE 1LOVE 渋谷区神宮前 2007年
写真:阿野太一

最近よく使う素材はありますか?

鈴野:特定の素材というのはありませんが、自らつくっている素材があります。「カラーポリモック」というもので、ビート板や梱包材として使われるポリエチレン発泡体の成形・加工の過程でできる端材を圧縮成形したリサイクル素材です。これを自分たちの商品にしようと思っており、サンプルセットとカタログをつくって、2018年11月のIFFT/インテリア ライフスタイル リビング展で発表しました。

【写真】「カラーポリモック」2018年

「カラーポリモック」2018年
写真:小川真輝

HPで公開されているものだけで300を超えるプロジェクトがあり、多様性に富んでいます。近年、多様性とともに寛容性、おおらかさが求められていると感じていますが、その点についてどのようにお考えですか?

鈴野:建物がリノベーションによって、以前とは全然違う空間として機能するという許容力というか、そういう寛容性はいいなと思っています。例えば、住宅がそのままショップやカフェになれるとか、アマゾンのスタジオがそうですが、大きな殻だけあれば、オフィスにも変えられる。一方で新しいオフィスビルもどんどんつくられていて、最近あるスポーツメーカーのオフィス(NJH)も手がけたのですが、フリーアドレスのため使う人それぞれに居場所を選んで働けるようなおおらかな許容力をもったオフィスです。

禿:おおらかさは、使い勝手においても僕たちが目指しているものです。建売住宅のように寝室、リビング、キッチンと、見ただけでその部屋だと分かるような感じではなくて、抽象度を高めて少しずつ違う居場所をつくっていく、そういった感覚でオフィスも住宅も捉えています。

【写真】NJH 港区赤坂 2017年

NJH 港区赤坂 2017年
写真:阿野太一

「プロダクトから都市計画までをフラットに考える」という発言をされています。

鈴野:ボーダレスというわけではないのですが、例えばオフィスばかりやっていると、オフィスはこうすればできるんだという固定観念が生まれてくると思います。そこで、家具をつくるときは建築を設計するようにとか、オフィスをつくるときは家を設計するようにと考える。オフィスにも居住性が求められていいはずだし、逆に家は人を招くこともあるので、カフェやバーのような非日常の空間も必要ではないか。そういう風に思考をずらして考えるようにしています。

「都市を変えていく」という発言もされていますし、最近ではランドスケープに興味があるとおっしゃっています。具体的に取り組まれた活動を紹介いただけますか?

鈴野:西武池袋本店屋上のプロジェクトや石巻工房とのプロジェクトもそうです。最近の例としては、オープンファニチャーというプロジェクト(OPEN! FURNITURE)があります。舞台となった芝浦の運河は、2000年代初頭に遊歩道が整備されたのですが、ビルは全部背を向けて建っていて、誰も見向きもしない。プロジェクトの中心となった新芝橋周辺は、毎日田町駅から通勤、通学で何千人という人が歩くのですが、ただ黙々と歩くだけ。原因はしばしば運河から立ち上る異臭なのですが、それでも水辺の魅力はあります。そこで、少しでも心地良い居場所をつくって、根本から人々の意識を変えていこうと、SHIBAURA HOUSEや地元の商店会と一緒に、この地域に集う人々が水辺で使うことのできる家具を考えました。

【写真】禿真哉氏 禿:都市やランドスケープについては、これからも取り組みたいと思っていますし、もともと都市をより良くしたいから建築の仕事をしているところもあります。特に僕たちの学生時代は、建築の用語でしか話せないような、その世界で完結した作品の発表が多かったこともあって、それにストレスを感じていました。言を弄しても、まちを歩けば建築家がつくった住宅などないし、閉じた住宅ばかり。何か変えたいなと、そういうチャンスに自分から働きかけていかなければと思っています。OPEN! FURNITUREでやっていることも、これで終わりではなく、今後も続けていくつもりです。

【写真】OPEN! FURNITURE 港区芝浦 2018年

OPEN! FURNITURE 港区芝浦 2018年
写真:鈴木竜一朗

新たな協働も試みているようですね。

鈴野:建築、デザインの仕事は、プロジェクトの規模と内容によって、その都度体制を整える必要があります。ただ、設計事務所として規模を大きくすることは、僕たちの目的ではありませんから、今の12、3人くらいの規模がいいかなと思っています。自分たちの目の届く範囲は限られていますから。その上で、プロジェクトによって、その特徴を引き出してくれるような方たちと協働できればいい。例えば、通常は照明や構造、グラフィックの人たちと一緒に仕事をしますが、最近ではもっと広げてアーティストや音響の専門家とオフィスやショップ(GARAGE Dentsu isobar、NUBIAN HARAJUKU)をつくるようなこともしています。

【写真】GARAGE Dentsu isobar 中央区築地 2018年

GARAGE Dentsu isobar 中央区築地 2018年
写真:高木康広

【写真】NUBIAN HARAJUKU 渋谷区神宮前 2018年

NUBIAN HARAJUKU 渋谷区神宮前 2018年
写真:阿野太一

【写真】鈴野浩一氏 禿真哉氏
鈴野浩一 すずの こういち
1973年神奈川県生まれ。96年東京理科大学工学部建築学科卒業。98年横浜国立大学大学院工学部建築学専攻修士課程修了。1998~2001年シーラカンス K&H勤務。2002~03年Kerstin Thompson Architects(メルボルン)勤務。2004年2月~株式会社トラフ建築設計事務所共同主宰。2014年〜京都精華大学客員教授。2015年~グッドデザイン賞審査委員。そのほか、多摩美術大学、立命館大学、名古屋工業大学、東京都市大学、東京藝術大学の非常勤講師を勤める。
禿真哉 かむろ しんや
1974年島根県生まれ。97年明治大学理工学部建築学科卒業。99年同大学大学院修士課程修了。2000〜03年青木淳建築計画事務所勤務。2004年2月~株式会社トラフ建築設計事務所共同主宰。2008~14年昭和女子大学非常勤講師。

インタビュアー

中崎 隆司 なかさき たかし
建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー。生活環境の成熟化をテーマに都市と建築を対象にした取材・執筆、ならびに展覧会、フォーラム、研究会、商品開発などの企画をしている。著書に『建築の幸せ』『ゆるやかにつながる社会-建築家31人にみる新しい空間の様相―』『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』『半径一時間以内のまちつく事』などがある。

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