Case 11:

品川ビル再生計画

設計:神本豊秋建築設計事務所
文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)

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建設後に用途地域が変更されたため、既存不適格となったビルの再生計画。過剰床面積を共用部に変えるなどして改修コストを抑えた地域貢献型施設(キッズ・ステーション)。

神本豊秋氏が手掛けているのは築45年以上のビルの再生計画だ。対象となるのはある企業が自社ビルとして所有・使用していた地下1階地上5階建て延べ床面積約2000㎡のRC造のビルで、私鉄駅からも商店街からも近い住宅街の中にある。偏心コアタイプのビルであり、南側の道路面の階段室と対極側にある屋外階段の2つの直通階段が設けられている。

建設後に用途地域が変更され、現在は3階までしか建てることができない。容積率が超えている既存不適格のビルである。既存のビルの容積率は400%あるが、建て替えると200%に減る。つまり200%の過剰床面積があることになる。
新しい事業者が入り、建物の再生を検討することになった。事業者が地域貢献型施設を希望したことから、神本氏はキッズ・ステーションを提案した。1階、2階はキッズルーム、3階は子育てカフェ、4階はカルチャースクール、5階はキッチンスタジオ、そして屋上庭園という構成である。子供をキッズルームに預けながら母親たちは料理教室やカルチャースクールに参加することができる。
この計画は用途変更にあたるため、例えば既存階段室は蹴上げ、踏面、幅員などの是正が必要になる。それにはコストがかかる。神本氏が提案したのは1フロアの居室面積を200㎡以内に抑え、過剰床面積を共用部に変更するとともに直通階段を1か所にすることだ。
「まず、道路に面する南側の部分を緩衝帯としてテラスにして、1フロアの居住面積を200㎡以下にする。居室面積は減るが改修コストを下げることができる。また、1フロアの居室面積を200㎡以下にすることによって、2つの避難階段をひとつにすることができる」。

新築以上の価値を生み出せる可能性がある既存建物。再生には法的処理が必要だが、解決策はかならずある。そのメリットを生かしながら有効活用する手法の開発が求められる。

避難階段ではなくなった道路に面した階段室を巨大なジャングルジムに見立てた垂直庭園とし、外部に直接アプローチできるようにする。ただキッズルームが児童福祉施設に該当する施設になった場合は屋内に階段を設置する方針である。

「過剰空間を新しい付加価値として落とし込む。変えるには法的な処理が必要であるが、既存躯体の形式には法的な解決策がかならずある。レンタブル比やコスト、法律で押し戻させる事例が多いが、再生建築には不動産言語を押し戻す力強さがある」。
再生建築の場合、次のような疑問もある。特殊解になっている。一部の事務所にしかできない。コストだけの話ではないか。それでは再生建築は促進されないし、既存建物の良さを生かさなければ再生建築の未来はない。
「新築の7割のコストでできるという話ではなくて、建築の形式を変えられる分野に突入していく。例えば耐震改修に伴う増築は許される。そういうものを組み合わせたら新築以上の価値を生み出せる可能性もあるし、ストックを残せる。工期が短く、既存不適格の建物も維持できる。再生建築を促進したい」。
東京は建設と解体による騒音・粉塵都市だ。スクラップ・アンド・ビルドを繰り返し、周辺の生活環境に騒音と粉塵をまき散らしている。それらを低減するためにも既存建物をもっと有効活用していく手法を開発していくべきだ。

品川ビル再生計画
所在地: 東京都品川区
発注主: ディベロッパー
用途: 保育所/事務所/倉庫
設計: 神本豊秋建築設計事務所
再生コンサルタント: 再生建築研究所
施工: 未定
階数: 地上5階 地下1階建て
構造: 鉄筋コンクリート造
建築面積: 約400㎡
延べ床面積: 約2,000㎡
工事予定期間: 2016年4月~
神本 豊秋

神本 豊秋 (かみもと とよあき)
1981 大分県生まれ
2004 近畿大学 九州工学部建築学科 卒業
2004 -12 青木茂建築工房 勤務
2012 - 神本豊秋建築設計事務所 設立
2012 - 東京大学 生産技術研究所 川添研究室 特任研究員
2015 - 再生建築研究所 設立
http://kamimoto-arch.com