Case 13:

木の風景

設計:伊藤立平建築設計事務所
文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)

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地域資源を見直すことから始まる地域再生。その地域資源である木材の付加価値を高める製材所を生活の場に近づけることによって、地域経済の循環をつくろうとする試み。

伊藤立平氏が手掛けているのは製材業を生業とする4人家族のための住宅とギャラリー・スペースが一体となった施設だ。ギャラリーには住宅で使用する家具や建築物の一部を含む木工品が並び、材料のショールームと製材所のサテライト施設で構成されている。サテライト施設にはレクチャースペース、会議室、ワークスペース、事務室の機能を持たせる。

「個人出資と製材所(企業)出資の比率を設定する試みを行っている。住宅は「不動産(ストック)」として全体の計画の50-60%の比率とし、ギャラリーなど多用途機能を持たせた部分は「設備投資」として50-40%の比率とすることで建築のあり方を変えていけるのではないか」と伊藤氏は語る。
計画地は山口県長門市の駅前商店街に近い。近年、区画整理された住宅と店舗が混在する中にある。長門市の人口は約3万5千人で過疎化と高齢化が進んでいる。周辺には森林資源が豊富にあるが、林業従事者は減少しているという。
伊藤氏と同年代のクライアントが営む製材所は、昔は駅前にあったが、今は計画地から約10km離れた山の中にある。製材所には原木が根、枝、幹、樹皮に分けられるところから加工材や工芸品へ至る様々な木の形があり、また手間をかける人々の姿が生み出す風景が広がっている。伊藤氏はこの活力のある製材所の風景と計画地のプロジェクトをつなぎ、製材所の社員、来訪者、地域の人々、家族の賑やかな関係を築きたいと考えている。
「この製材所ではこれまで用途がなかった地元の樹種である椎を近年、床材などに加工している。その加工の過程で生まれる材には一定の規格寸法がある。そこで製材所でよく見られる様々な規格寸法の材を乾燥させながら積層・保管する方法を応用し、壁の構法として採用した」。

様々な寸法の規格材を利用した積層壁。使い方、経年変化によって部分更新が可能なその壁は、つくり手と使い手が相互に関わり続けることで少しずつ変化し、関係を重ねていく。

壁は鉄筋の芯材をガイドにして規格材を積層させる。その壁は建築物の架構の一部であると同時に、場所に応じて寸法を変え、日除け、通風、目隠し、棚、家具などにする。規格材は着脱して部分更新が可能であり、物の配置、住み方による模様替えや、経年使用による修理交換を行うことができるようにする。

積層壁が生み出す場所は、常につくり手と使い手が相互に関わり続けることで少しずつ変化し、関係を重ねていく。この試みが活力のある風景を市街地に再生する契機になればと思っている」。
現在の林業は、製紙会社や市場にパルプ材や建材として木材を供給することで成り立ち、産地の地域にも既製品として入ってくる。林業は地域から離れているのだ。
「付加価値を高めた状態で木を売ることが地域のひとつの生き残り策ではないか。実際につくっているところと生活の場所を近付けることで新しい関係が生まれる。ノウハウがつまった技術をシェアする。手助けするようなツールを近くに置いておく。もう一度まちなかにそういう状況をつくりたい」。
地域再生は地域資源を見直すことから始まる。それは人とものの組み合わせである。地域の資源である木材を扱う製材所と地域に暮らす生活者を建築でつなぐ。そのための小さな経済活動の仕組みの構築と新しい建築システムの開発を行い、地域経済の循環をつくろうとする試みである。

木(もく)の風景
所在地: 山口県長門市
建築主: 個人
用途: 製材所(出張所)及び住宅
設計: 伊藤立平建築設計事務所
建築面積: 103.36㎡
延べ床面積: 138.03㎡
階数: 2階
主体構造: 木造
工事予定期間: 2016年1月~5月
伊藤立平

伊藤 立平 (いとう たっぺい)
1974年神奈川県生まれ。
1998年東京工業大学工学部建築学科卒業。
2000年東京工業大学大学院総合理工学研究科人間環境システム修了。
2000~08年株式会社日建設計。
2008~11年SPACESPACE共同主宰。
2011年~伊藤立平建築設計事務所主宰
http://www.tappeiito.com/