Case 14:

福智町立図書館・歴史資料館

設計:大西麻貴+百田有希/o+h
文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)

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「町民が待ち望むような公共建築」、「開かれたパブリック空間」をめざしたという福岡県福智町の図書館o歴史資料館は、まちの未来を考えるプロジェクトでもある。

大西麻貴氏と百田有希氏が手掛けているのは図書館と歴史資料館からなる複合施設だ。2015年3月に福岡県福智町が実施したプロポーザルコンペで設計者に選ばれた。設計チームにはアートディレクターの原田祐馬氏や編集者の多田智美氏も参加している。

福智町はかつて炭鉱で栄えた赤池町、金田町、方城町の3つの町が2006年に合併してできた町であり、400年以上続く焼物の上野焼などが知られている。
設計チームは施設の愛称として「ふくちのち」を提案している。知恵の拠点の「智」と福智町という「地」で培われてきた知恵や魅力をつなぐところという意味を込めている。
大西氏と百田氏は設計にこめる思いを次のように語る。

「設計している間に人と人をつなぐきっかけをつくりたい。人と人が出会う、時代を超えて本と人が出会う。本をきっかけに様々な出会いが起こりうる場所にしたい。なじみのない人にも行きたくなる開かれた図書館・歴史資料館にしていく。まちの未来を考えるプロジェクトにしたい」(大西氏)。

「公共施設を待ち望むような状況をつくりたい。そのために中学生と ワークショップをし、農家や子育て世帯の母親など地元の人に対するヒアリングを行った。そのような手順を踏むことで待ち望む状況も変わるし、使い倒していく状況も生まれてくるのではないかと考えている」(百田氏)。

様々な機能がもり込まれ、にぎやかな場所と静かな場所が共存する。つまり、多様な居場所がある図書館o歴史資料館は、町民が連携して町を変えていく拠点になる可能性がある。

コンバージョンのプロジェクトであり、17年前に建てられ、現在は支所として使われている旧赤池町庁舎を使う。RC2階建てで延べ床面積は約3000㎡という規模だ。周辺は住宅街だが、庁舎があったことから商工会や公民館など公共施設が集まっているエリアである。

計画地の前面には広場を持つ公園がある。それに対して1階は中央にある大きな吹き抜けの空間を活用して、文化の活動が広がる屋内広場のような空間にする。子供コーナー、キッチンスタジオ、カフェ、工房、キオスクなどの機能が入り、にぎやかな図書館・歴史資料館になる。
2階は1階の大きな広場と対比的な小さな居場所をつくっていく。書棚が並ぶ空間につながるテラスやラウンジ、グループ学習室などを配置する。
また1、2階ともに特徴的な窓辺をつくっている。
「規則的に窓が並ぶファサードであり、そこに700ミリ角ぐらいの太い柱がある。その奥行きの深さを生かして、あるいは外壁を600~800ミリふかして空間をつくり、ソファ席や個人の学習スペース、展示スペース、縁側などを設ける」(百田氏)。
歴史資料館は1階に企画展示室を設けているが、常設展示はまとめるのではなく、建物全体に散らばらせる。例えば書棚の端のガラスケースに歴史資料が展示され、小上がりの床の間に歴史資料を展示する。すべてが図書館であり、すべてが歴史資料館なのである。
にぎやかな場所と静かな場所が共存する。パブリックな空間のなかに多様な居場所があり、町民が連携してまちを変えていく拠点にもなる。そのような図書館・歴史資料館が生まれそうだ。

福智町立図書館・歴史資料館
所在地: 福岡県福智町
用途: 図書館/歴史資料館
設計: 大西麻貴+百田有希/o+h
建築面積: 1792.90㎡
延べ床面積: 3019.91㎡
階数: 2階
主体構造: RC造
工事予定期間: 2016年4月~12月
大西麻貴

大西 麻貴 (おおにし まき)
1983 愛知県生まれ
2006 京都大学工学部建築学科卒業
2008 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了
2008 -大西麻貴+百田有希 / o+h共同主宰


百田有希

百田 有希 (ひゃくだ ゆうき)
1982 兵庫県生まれ
2006 京都大学工学部建築学科卒業
2008 同大学大学院修士課程修了
2008 - 大西麻貴+百田有希 / o+h 共同主宰
2009-14 伊東豊雄建築設計事務所勤務