Case 15:

木津川遊歩空間整備事業

設計:岩瀬諒子設計事務所
文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)

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防災のために埋められた立売堀(いたちぼり)。かつて、日本三大木場のひとつだったこの堀川のにぎわいを取り戻し、人が川とともに生きる空間をつくり出そうというプロジェクト。

岩瀬諒子氏が手掛けているのは川沿いの遊歩空間のデザインだ。2013年に大阪府の河川室と文化課が連携して実施した「木津川遊歩空間デザインアイデアコンペ」で最優秀賞を受賞した。大阪市西区を流れる木津川の松島橋と大渉橋の間の左岸側の240mの遊歩道と、その中間に位置する立売掘(いたちぼり)上面を整備するというプロジェクトだ。対象面積は約3,400㎡になる。

周辺は住宅と町工場が混在した下町だ。かつて周辺は木材の集散地としてにぎわっていたが、現在、川とまちは堤防で分断されており、川辺ににぎわいはない。
そこで岩瀬氏は「人と水の距離を縮めたい。柔らかい場所をつくり、活気をもう一度この場所に取り戻したい」とアイデアを練った。
そして「既存の護岸の上に階段状のランドスケープをつくり、まちと水辺が連続するようにする。そこに緑を植え、住民が育てることをきっかけにして人のつながりとにぎわいをつくる」ことをプロジェクトの骨格にした。
既存の護岸を土台にした人工地盤を川側に張り出させ、遊歩道の幅員を確保するとともに、180をモジュールにした最大900の段差がある階段状の地形をつくっている。遊歩道を曲がりくねらせ、その道筋に大きなプランターを配置し、様々な居場所と緑を織り交ぜた空間を生み出している。また水面まで階段状に伸びる親水護岸は水にもっとも近づける場所であり、潮の満ち引きという自然現象も感じられるようにしている。
舗装の素材はポーラスコンクリートを使用し、この舗装材を繰り返し転圧し、積層させて地層のように見せている。

堤防で分断された川とまち。「人と水の距離を縮め、まわりとの依存関係をつくり」、様々な居場所と緑を織り交ぜた空間を生み出す。

主なデザインアイテムはプランターと柵だ。プランターは蛇籠のような形態をしている。菱形のフェンス材の縦材を丸棒に代えて溶接したものを使用する。ポーラスコンクリートを使用した植栽升もつくる。柵はつり橋に使われるワイヤーをトップに使い、手すりにする。また散水栓のホースの巻き取り機を置き、人が手入れをしていることを可視化する。

立売堀上面エリアは盛土し、川側にイベントスペースを、奥にキッズパークを配置する。またこの入口部分から現在の堤防よりも約1.3m低い昔の堤防が発掘されため、歴史の痕跡としてエントランスの擁壁として残している。
「仕上げ過ぎるとその場が持っている可能性をつぶしてしまうと感じた。そして使いながら必要なものを考えていくこと、まわりとの依存関係をつくることの重要性に気がついた。接している面は500m~600mの長さになる。接している建物が変わっていくきっかけをどうつくるか。空き家や空き地をどう活用するか。おおらかにこの場所の未来にコミットしたい」。
かつて木材の集散地としてのにぎわいがあった。その後、防災のための堤防をつくり、堀川を埋めた。安全を手に入れるためにそのような土木スケールのリノベーションを繰り返してきた。そしてまちと離れてしまった川沿いに、遊歩空間を整備するとともに、樹木を育てるなど人が手を入れる機会をつくるという新たなリノベーションを行うことで、これからの時代の、人が川とともに生きる空間をつくりだそうとしている。

木津川遊歩空間整備事業
所在地: 大阪府大阪市西区
事業主: 大阪府
用途: 遊歩道/広場
設計: 岩瀬諒子設計事務所
 + セントラルコンサルタント
施工 日宝建設工業、関西港湾工業、
テックスバル、他5社
整備面積: 約3,400㎡
構造: 鉄筋コンクリート造
工事予定期間: 2014年3月~2017年3月
(2016年3月 一部併用開始予定)
助成: 公益財団法人黒田緑化事業団
中之島にぎわいの森づくり基金
岩瀬諒子

岩瀬 諒子 (いわせ りょうこ)
1984 新潟県生まれ
2007 京都大学工学部卒業
2010 京都大学大学院工学研究科修了
2008-2009 EM2N Architekten (スイス、チューリッヒ)
2011-2012 隈研吾建築都市設計事務所
2012-2014 慶應義塾大学理工学部助手
2014- 東京藝術大学美術学部建築科教育研究助手
2015- 京都大学工学部非常勤講師