金沢21世紀美術館設計者インタビュー Close
   
『明るい開放的な美術館』 GLASS&ARCHITECTURE Design Files
interview:川嶋賢介[妹島和世+西沢立衛/SANAA 金沢21世紀美術館設計担当]
金沢21世紀美術館の敷地は、西に市役所、北東に兼六園を控える金沢の中心地。ここで市民に開かれた文化施設をつくるという命題に、設計者妹島和世+西沢立衛/SANAAはどのように解答したのだろうか。設計の与条件は現代美術を中心としたあらゆる美術の展示ができる施設をつくること。その美術館部門と同時に、市民の交流を行える文化スペース——多目的ホール、図書館、託児スペースなど市民交流部門をつくること——であった。

川嶋—敷地の3方向が道路に面していて、残りの一方も用水に面していることから、まず、どの方向にも開かれている美術館にしたいと思いました。どこかに立派な正面玄関のような場所をつくってしまうと、どこかに裏側のような場所が出来てしまうと思ったので、表裏のない形として、円形の建物を敷地の中央に配置することにしました。また、4つのエントランスを設けていて、どの方向からでも、気軽に美術館に入れるようになっています。

美術館のプランニングについてお聞かせください。

川嶋—直径約113mの円形の建物の中心部は展示ゾーンとなっていて、展示室どうしが間隔を持って配置されています。それにより、展示ルートも自由に設定出来るようになっていますし、複数の展覧会を同時に行うこともできるようになっています。また、展示室と展示室の間の空間は、廊下としての役割を持っていますが、広くなっているところがいくつかあり、展示空間や憩スペースとしても使えるようになっています。
外周部分は、シアターやライブラリーなどの交流ゾーンとなっていて、チケットを持っていない人でも、自由に建物の中を一周できるようになっています。交流ゾーンと展示ゾーンとの境界は、透明なアクリルの扉で仕切られていて、交流ゾーンに訪れた人でも、展示ゾーンで行われている内容が垣間見えたりするようになっています。
また、通常これだけ大きな平屋の建物だと、内部の空間が暗くなってしまいがちなのですが、この美術館では4つの光庭を配置することと、建物の端から端までを貫通する廊下をつくることとで、内部へ自然光と外の景色を取り込んでいます。それによって、建物の中心部でも明るく開放的な空間となるようにしています。


この美術館名には「21世紀」が冠されているが、21世紀的な美術館としての新しさはどこにありますか?

川嶋—まず、現代美術を中心とした大規模な美術館を日本の地方都市につくるという試みは、とても挑戦的な試みだと思います。その大きな挑戦をする上で、金沢市は設計の当初から、展覧会を企画する学芸員の方々を招き入れられました。美術館という容器がまだ出来ていない段階で、学芸員の方々を採用するということはとても珍しいことですし、実際に、設計当初から完成に至るまで、プランニングや展示室の大きさ、素材、ディテールにいたるまで、繰り返し打合せをして決定に至っています。これはとても当たり前のことのように思えるかも知れませんが、今までの美術館では、なかなか実現出来なかったことだと思います。

全体的にミニマルにデザインを仕上げていますが、どのような意図からでしょうか。

川嶋—この美術館は現代美術を主に扱う美術館なので、現代美術では作品は展示室の中だけにとどまらず、廊下やトイレなど、あらゆるところで作品が展示される可能性があります。ですので、この美術館では、建物のどこでも展示空間となりうるように、出来るだけシンプルになるようにしています。実際、展示ゾーンと交流ゾーンを仕切っているアクリル扉を開ければ、交流ゾーンも展覧会の一部となり、廊下や休憩コーナーも含めて、この建物全体が一つの大きな展示空間となると考えています。

最後に、この美術館においてガラスがどのように使われていますか?

川嶋—展示室の多くは、トップライト方式のガラス天井になっていて、トップライトとガラス天井の間に照明などの設備が仕込まれています。そのような場合、通常は完全な乳白色のガラスを使用して、内部の器具や構造を覆い隠してしまうことが多いのですが、そうすると、天井のガラス面までで空間が終わってしまっているような印象を受けます。今回は、展示室の天井の上にもさらに空間があるように感じるよな、広がりのある空間にしたいと考えたので、透明感のある半透明の乳白色のガラスを使用しました。そうすることにより、展示室の中で作品を見ている時も、トップライトからの自然光の明るさや色の微妙な変化も感じられるようになっています。
外周のガラスは、建物の外周部だけでなく奥の方にいても、外の光や景色を感じられるようになっていますし、高透過ガラスを使うことにより、建物の周りからでも、中で行われていることが垣間見えるようにもなっています。また、外周ガラスには、直径113mの非常に浅い曲げ加工の曲面ガラスを使用しているので、建物の表面には周囲の景色を柔らかく映り込んでいます。美術館はその性格上、不透明な壁で外周を覆われることが多いのですが、この外周ガラスによって、誰でも気軽に立ち寄ることの出来る開かれた美術館になっていると思います。
検討されたプランの模型の一部
検討されたプランの模型の一部
決定プランの模型(部分)
決定プランの模型(部分)
屋外の風景が写しこまれる外周ガラス壁
屋外の風景が写しこまれる外周ガラス壁
光庭4に至るシークエンス。独立した展示室群の間にスッポリと抜けた光の空間が挿入されている。
光庭4に至るシークエンス。独立した展示室群の間にスッポリと抜けた光の空間が挿入されている。
光庭4に至るシークエンス。独立した展示室群の間にスッポリと抜けた光の空間が挿入されている。
光庭4に至るシークエンス。独立した展示室群の間にスッポリと抜けた光の空間が挿入されている。
レクチャーホール脇の廊下。室内から屋外へと視線が通る。
レクチャーホール脇の廊下。室内から屋外へと視線が通る。
模型写真:妹島和世+西沢立衛/SANAA