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アーキテクトルーム

■住まいの話題[368]:継ぐ
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あれ?寅さんが帰ってくる!

数年前、友人から「山登りの帰りに食堂へ寄ったが、これがなかなかいい感じの建築だったので一緒に行きませんか」と誘われ、低山ハイキングがてら、駅前の不思議な食堂に行ってきました。薄緑のペンキを塗った板張の外壁に真っ赤な英字の屋号、木製の上げ下げ窓と、シャレタ古い洋館の雰囲気が濃厚です。

中にはいると、三角頭巾に割烹着姿のおばさまとタンポポのようにかわいらしいウェートレスがいた。お客は、仕事帰りのリラックスしたおじさんたちやジョッキー片手に会話を楽しんでいる陽気な外人さんたち、ひとり黙々と豪快に食べている人、 声だけ掛けて去って行くご近所さん、お弁当をとりにきたおばぁちゃん、配達のあんちゃん・・・。

登山の心地よい疲労感の中、料理がくるまでビールを飲みながら入口の暖簾をボケッと眺めていると、少し酔ったのか「あれ?寅さんが帰ってくる!」。そんな気がしました。建物が魅力的なのはもちろん、人がつくり出す豊かで幸せな昭和の残像がそこにはありました。

何を残すべきか、何を新しくするべきか
今年になって、その食堂がリフォームしたらしいとの情報があり、どんな感じになったのかなぁ、三角頭巾のおばさんは元気かなぁ、と再度ハイキングがてら友人とそこへ向かいました。外壁は今どきのサイディング、中は明るい照明と真新しい建材。リフォーム後はまるで建て替えられた新築のようにきれいになっていました。でもよく見みると、大きな吹抜けに回廊はきちんと残っているし、プランの面影もあちらこちらに残っている。もちろん、働いているおばさまやメニューや箸入れは以前と変わらない。まずは一安心。
既存をできるだけ残してみた 既存壁をとった後の貫状の埋木
満員のお客さんの楽しそうな声が響く中、ビールを飲みながら店内をいろいろ眺めていたら、僕の手掛けるリフォームはいったいどこに向かっているのだろうかと、なんだか胸騒ぎがしてきた。“新築みたいなリフォーム”“新しいということだけに価値をおくリフォーム”、それだけでいいのだろうか。

たとえば、愛着のある服ならば何年でもつきあっていきたいし、ほころびたなら丁寧に繕い、また袖を通したい。家や街ともそんな風に向かい合っていきたい。建物も住む人も年をとってゆく。必要なことは、最新の設備よりも細心の配慮。住み手だけでなく、ご近所、道行く人々にも愛され住み継がれていく、そんな家づくりを手掛けたい。「何を残すべきか、何を新しくするべきか」、住み手と一緒に向かい合いながら・・・。

事務所を設立してからいろいろな人に声をかけられ、洗面所だけとか玄関だけといった小さなリフォームを少しずつ手掛け、設計の仕事が楽しくなってきたある日。戸建リフォームの現場で雑談中にある職人さんが言う。「テラちゃんさぁ・・・建築家ってさぁ、なんでナンデモカンデモ壊してからリフォームするの? 今あるモノや空間を理解してあげようよ。自分がイヤだと思うモノだって許してあげようよ。むしろ活かしてあげる。そんなことってできないかなぁ」。

その言葉に触発され、よーし、図面に描けないことや出てこないことを現場に張り付いて考えてみよう、人とモノとの対話にもっと積極的になろうと。結果、お施主さんや職人さんと徹底的につくり上げたので、オーソドックスながらもなんだか懐かしい琥珀色の空間ができ上がりました(写真参照)。
悩みはつきない
先日、リフォームの現場で庭や家の隅々をウロウロ歩きまわり、のんびりした気分で眺めただけではわからないことを見つめてみた。「どうしたら?」と悩むことが重要なのではなく、こうした時間を持つこと自体が大切なのだろう。完成に近づいたある日、現場監督さんから「新築みたいにキレイになりましたね!」と一言。あれれ・・・振り出しに戻っちゃう!
住まいの話題[368]執筆者
■寺林 省二(てらばやし しょうじ)/ テラバヤシ・セッケイ・ジムショ


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