Javascript is disabled.


アーキテクトルーム

■住まいの話題[460]:中庭「的」空間をめざして
画像をクリックすると大きなサイズで見ることができます。
パリには中庭がたくさんあります
パリに住んでいたとき、中庭に面した部屋に3年間暮らしていました。中庭は単に人が通る場所で、自転車置き場に使われていたり、子供の遊び場だったり、立ち話をする場所だったりと、特別に何があるというわけではありません。でも、なんだかすごく大事な空間だということに次第に気づいてきて、最後には中庭で論文まで書いて日本に戻ってきました。

僕の住んでいた場所は、パリの胃袋といわれた5区ムフタール街から一本入ったアルバレット通りの一角にあるアパルトマン。大学の多い学生街なので、おそらく半分くらいは学生が住んでいる、庶民的で賑やかな場所でした。同じ中庭を共有して使っている人同士は親しみもわきますし、話せばすぐ友達になり、よくフェットゥ(パーティ)に呼ばれたりもしました。

パリに中庭が多いのは、街のつくられ方とも関係しています。パリは建物が隙間なく連続して建てられていて、街の顔となるファサードが連続し、高さも揃っています。そうやってつくられたやや大きな街区の中には、通風や採光のためにどうしても中庭が必要になります。

一方、日本の場合は、一敷地一建物の原則があって、敷地のどこに建物を建てるかというところからスタートします。そうなると、隣の建物との間に距離をとろうとするので、建物のあいだに庭はできるけれども、中庭はつくられにくい傾向にあります。もちろん、湿度が高いという気候の問題もあります。
パリの中庭。レンゾ・ピアノ
《リュ・ドゥ・モー集合住宅》、パリ19区。
ヴィラージュ・サン=ポールの地図。
中庭が連続している。パリ4区。
都市と住宅をつなぐもの
さて、どうして中庭が重要と感じたかといえば、パリだと、中庭がクッションの役割を果たしていて、住宅の内部(建築空間)と外の通り(都市空間)をつなぐものとして、中庭(緩衝空間)があったからです。日本だと、住宅から直接外に出ますね。だから、建物が直接街に触れているのですが、ある意味ダイレクトすぎるようにも感じます。

パリの中庭のようなクッション的な空間があったほうが、実は建物が都市の中にフィットしているように感じます。内部と外部が連続的に変化していく感じですね。生活のスタイルも、中庭があることによって、より都市的なものが内側に入り込んできている気がしました。

パリの中庭は、もともと邸宅に馬車を入れる場所として発展しました。その後人口の増加とともに、細分化されましたが、現在も街区の裏を通り抜けるような、素晴らしい中庭がいくつも残っています。他の国の中庭も調べてみました。スペインのパティオはイスラムの伝統をひいて噴水があったり、ドイツではホフといってフランスよりずっと大きな中庭であったり(例えば校庭のような)、かなりヴァリエーションがありますが、都市と住宅とのあいだで、クッションの役割をしているという役目は変わらないようです。
中庭的空間の可能性
住宅を設計するとき、僕は「中庭的な空間」、つまり都市と建築をつなぐような空間をいれられればよいなと思っています。それは必ずしも中庭そのものとは限りません。テラスだったり、木陰だったり、土間だったり、様々な形をとるでしょう。あるいは家全体が中庭のようにできているかもしれません。でも、そうすると、生活にもちょっとした変化が現れるのではないかと思います。中庭的な空間が、きっと人とのコミュニケーションを加速させることでしょう。中庭的空間とは、豊かな生活を発生させるための空間的装置です。

もしパリに行く機会があれば、4区のヴィラージュ・サン=ポールVillage St-Paulという場所に、ぜひ行ってみてください。街区のなかに入ると、マレ地区の喧騒が遠のき、別世界が現れます。複数の中庭が、少しずつつながっていて、中でも外でもない、不思議な感覚に捉われます。きっと中庭のよさと、その可能性を感じられるのではないかと思います。
住まいの話題[460]執筆者
■松田 達(まつだ たつ)/ 松田達建築設計事務所


ページTOPへ