Javascript is disabled.


アーキテクトルーム

■住まいの話題[478]:様々な「距離感」をつくること
画像をクリックすると大きなサイズで見ることができます。
距離感
距離というものは実際のものと体感的・心理的に感じるものが必ずしも一致しない、ということを誰もが感じたことがあるでしょう。例えば、閑散とした同じ風景がまっすぐ続く道と、様々な商店や人でにぎわいのある繁華街とでは、歩いた時に感じる距離は異なります。言うまでもなく、後者の方が短い距離に感じる方が多いのではないでしょうか。
距離は、見えているものや周りの状況によって感じ方が変わってきます。

空間に対しても同じことが言えます。全貌が一望できる空間では、目でその距離感をある程度捉えることが可能であるため、その空間の大きさを把握することができるでしょう。一方、全貌が見えない、もしくは見通せない空間は、目で距離を捉えにくいことや奥に何かありそうに感じるという期待感によって、実際の空間よりも広がりを感じたりすることがあります。
また一望できる空間でも、距離が長くなると手前と奥という関係が発生したりします。

目の前に、あるいはその向こうに何が見えているか、どのように見えているかによって距離の感じ方や人やものの関係が全く異なってきます。

このように、距離には「物理的な距離」と「心理的な距離」があると考えられます。「物理的な距離」は文字通り、現実の距離です。「心理的な距離」は、実際は近いのだけれども遠く感じたり、現実の距離とは異なる心理的・感覚的に感じる距離をさしています。
前庭を通して道路、2階寝室
その向こうの窓を通してさらに外が見える。
窓から前庭、その向こうに室内、
さらに奥に外の風景が見えている。
松原の住宅
世田谷の住宅街に建つ、夫婦ふたりのための住宅です。建物中央あたりに3方を囲まれた2層分の天井高をもつ、外部だが内部のような雰囲気を持った「前庭」を挿入することで、物理的にも心理的にも外部・内部間にゆるやかな「距離感」を敷地外と建物内につくり出しています。

2階の折れ曲がった寝室はひとつながりだけれども、奥を見通すことができない路地のような心理的距離をもった場所になっています。また2階寝室では、窓から前庭が見え、その向こう側の窓を通して、再び室内が見え、さらにその奥の窓から外の風景が見えてきます。ここでは手前から窓を通して、室内・屋外が交互に見えることで実際の距離とは異なる不思議な距離感が生まれています。近いのだけれども離れている、離れているけれども近いような、その時の見え方によって変化する「距離感」。

3階は1階の「前庭」を内部に反転させたような天井高の高い細長いワンルーム空間になっています。細長い部屋とすることで、一室の空間だけれども、手前と奥という「距離感」を生んでいます。

各層でそれぞれの場所で異なる「こちら側・あちら側」という「距離感」をつくり出し、そこで発生するアクティビティをゆるやかに連続あるいは分けています。
様々な「距離感」をつくること
改めて「距離」という言葉を辞書で調べてみると、「二つの物・場所などの空間の離れ方の大きさ。へだたり。」と書かれています。それは言い換えれば、「ある複数以上の物・場所・人・行為の関係の状態」と理解することができます。

住宅を設計するということは、人と人、人とものの関係の状態をどのようにつくり出すかということと考えています。それは「どのような“距離”をつくっていくか」ということに他ならないと言えます。

様々な「距離感」の中で、人と人、人とものの関係がどのように生まれてくるかということに可能性を感じ、住宅に様々な「距離感」が持ち込まれることで、豊かさをつくり出すことができるのではないだろうかと考えています。
住まいの話題[478]執筆者
■小谷 研一(おたに けんいち)/ 小谷研一建築設計事務所


ページTOPへ