Javascript is disabled.


アーキテクトルーム

■住まいの話題[567]:建築を「認知」する
画像をクリックすると大きなサイズで見ることができます。
クロード・モネの絵画
みなさんは、クロード・モネ(1840-1926)という画家をご存知でしょうか。モネは、近代を代表する印象派の一人で、「光の画家」とも呼ばれています。「印象・日の出」や「ルーアン大聖堂」、「睡蓮」の連作と聞けば、ピンと来る方も多いのではないでしょうか。光をテーマにした絵画は、多く存在します。モネの絵画は他のそれらと比較して、劇的な光と影のコントラストも描かれていませんし、色彩に溢れている訳でもありません。像はぼんやりとし輪郭ははっきりせず、二次元的でのっぺりした印象すら受けます。モネが「光の画家」といわれる所以とは何でしょうか。
変化し続けるものを定着する行為
ものを見るというのは、つまり光の反射を見ているということです。光は時々刻々と変化しますから、当然光の反射である像も変化し続けることになります。しかし絵画は、キャンバスに定着させるという点において、瞬間を切り取る作業です。ここに絵画の矛盾が存在します。モネは、描く時間の経過に伴う像の変化をキャンバスに定着し続けます。つまり光の変化そのものを描き続けることで、この矛盾を回避しようとしているのです。
近代と動くこと
前近代における建築とは、権威や信仰の具現化であり、例えば教会堂などを指します。教会堂は、不変の真理の実体化ですから、一望して理解が出来、荘厳で、永続的な光によって悠久の物語を紡ぐ空間装置でした。それは、モネ以前の絵画と同様に、永遠を瞬間として定着させたものといえます。
「コンセント」:外観 「コンセント」:内観
これに対してモネの描く行為は、近代の目によるものです。近代とは、18世紀から19世紀にかけて起こった産業革命以降の世界を指します。工業化による大量生産、流通、消費の実現であり、マシンエイジのダイナミズムが開花した時代です。熱力学の発達と化石燃料の使用により、鉄道、自動車、飛行機、蒸気船の登場とこれに伴う交通インフラの整備による大旅行時代が到来しました。システム化された都市は、見通しと都市インフラによる安全で衛生的な空間を実現し、鉄、ガラス、コンクリートの加工技術を用いた摩天楼が建設されました。均質で性能の良い製品が工場で日々生産され、百貨店が誕生し、文化や娯楽においては写真、映画、遊園地や都市公園が生まれました。

こうした劇的な変化の中で、人、もの、情報、環境は、絶えず「動く」ことになります。近代の目とは、自らも動きながら「動く」ことを観察、編集し、世界を認知する術を獲得するものであったのです。
建築を認知するとは
近代建築の巨匠ル・コルビュジェは、一連の作品で、建築的散策という人の動きを意図的に誘発する仕掛けを用いました。これは、体験者が動き回ることで建築を認知する仕掛けでもあります。建築を認知することは、一望して視認できる劇場型の部屋に対峙してその建築を理解したと思うことではありません。歩き回り、部分として収集した空間的断片を脳内で編集することによって総体化していく作業です。
建築の認知についての設計実践
私は、体験者が理解する建築の部分どうしを視覚的、空間的、機能的に関連づけることで、体験者自身による建築の総体の認知へと導くような設計を試みています(写真参照)。具体的には、内外部、塊と空洞、光と影、こちらとあちらを分節する境界をどのように決定していくかに重きを置いています。この時、境界自体、境界が壁である場合はそれがどんな形、色、素材なのかは、問題で はありません。重要なのは、境界が何を分節し、また分節されたものどうしがどのように関係づけられるかにあります。

諸室を、あるいは空間どうしを関係づける設計、それによる境界の問題は、建築を連続するものとして捉え、同時に自立させる有効な手段であると考えます。それは体験者にとって、モネの絵画でいうところの事実の変化を観察し続けることで本質を暴き出す試みといえます。
住まいの話題[567]執筆者
■小泉 一斉(こいずみ かずひと)/ Smart Running一級建築士事務所



ページTOPへ