Javascript is disabled.


アーキテクトルーム

■住まいの話題[568]:時の流れと共に生まれる「新しい価値」
画像をクリックすると大きなサイズで見ることができます。
家の寿命
住宅設計の依頼を受ける時、いつも思う。折角つくるのだから永く住んで欲しい。永く愛される家となって欲しいと思うのだ。家は住む人の思いを形にする事だと考え、その思いを探り当てる事に設計の作業を集中させる。そんな中での具体的な話としてこれからつくる家はいったい何年持つ家にすれば良いのかと聞いてみる。聞きようによってはずいぶんと乱暴な質問で、聞かれた方は答えようがなくて困ってしまうのだが、子供の世代に引き渡したいと言うのがあらかたの答えとなる。

待ってましたとばかりに少々手間はかかるが経年変化に耐えられる、メンテナンスしながら美しく老いてゆける素材を提案すると、だいたいの場合難色を示される。手間のかからない材料にしてくださいと言われてしまうのだ。世の中にはメンテナンスフリー、つまり手間要らずを売りにした建材が多く出廻っている。しかし我々からみるとそれはメンテナンスが不要なのではなくて、その時期を極力遅くしているに過ぎないし、メンテナンスが不可能な材料だったりする事がとても多い。

たとえば家の構造体の寿命が100年だとして、その建物に使われる外壁材の寿命が同じく100年ならばメンテナンスフリーの外壁材だと言えるのかもしれないが、実際にはそうはいかない。放っておけば外壁の寿命は構造体のそれよりもはるかに短いのだ。高性能を売り物にしたシステムキッチンやユニットバス。はたしてその性能は何年持つものなのか。

1件の住宅に使われる材料をパーツ点数で数えれば2万パーツにも及び、その一つ一つの寿命は皆異なる。その各々ががっちりと接着されていれば、当然寿命の短い方に全てが引きずられてゆく事になる。建物を永く使いたいと思うのであれば、寿命の短いもの程、メンテナンスが可能な材料を選定してゆく事が大切になるのだ。
居間からガラス越しに浴室と洗面室を見る。
床・壁・天井は全て異なる素材で
メンテナンスを考慮した塗装。
ステンレスシンクとガスコンロを
嵌め込んだ必要充分な超機能本意の
コンクリート製キッチン。
古い=新しい価値
家は建ち上がった時から劣化が始まる。ほとんどの地域で年間温度差は30度を超える。高温多湿で台風もあれば地震もある。ならば建ったその時が一番良い事になるのだが、必ずしもそうでも無いと言う考え方に立ちたい。家は住みながら、住む人に馴染んでゆくのだ。そこで営まれる生活習慣に呼応してゆくと言っても良い。

古い=劣化と言う視点に建つと、何かもの悲しい思いに及んでしまうが、古い=新しい価値と考えられると俄然力が湧いてくる。人は細胞レベルの新陳代謝を繰り返しながら成長し寿命をまっとうする。その過程の中で「老い」がある。どこまでを「成長」と言い、どこからを「老い」と言うのか。家が古くなる事を「劣化」と捉えるか「新しい価値」と捉えるのかに酷似しているように思う。

長期優良住宅として100年以上持つ家づくりが推進されている。劣化対策、耐震性、維持監理など九つの認定基準を設けて自治体がお墨付きを与える制度だ。税制面などの優遇がある。しかしそれだけで長命な家は実現できない。「古いものを大切に思う気持ち」が必要だ。古いものに新しい価値を生み出そうとする思いが無ければ家を長持ちさせる事は苦痛でしか無いだろう。

古くなるにつれて生まれる新しい価値とはいったいどのようなものだろうか。何も高級建材を使いましょうと言っているわけではない。欧州の古いホテルに泊まると、永い歴史の中で何層にも塗り重ねた壁や建具を目にする。隅の小傷から、かつての塗装色が見てとれる。塗り重ねられているためエッジが甘くボテッとしているがそれがとても愛らしい。日本では珍しくなった木製の窓は、やや建て付けが悪いが日射しがつくる陰影が美しい。

フローリングは無垢のものを無塗装で使いたい。染みも傷も付くがワックスだけで磨かれた床は時の流れの中で新しい価値が生まれてゆく。大切に使われているものは美しく老いるのだ。お金では手に入れられない「時の流れと共に生まれる新しい価値」に視点を置いてみる事が家づくりにとってとても大切な事のように思う。
住まいの話題[568]執筆者
■佐々木 善樹(ささき よしき)/ (有)佐々木善樹建築研究室



ページTOPへ