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アーキテクトルーム

■住まいの話題[577]:住宅を開放しよう
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プライバシー重視型社会への疑問
近年の住環境は、プライバシーやセキュリティという名目によって、閉鎖化・密室化しすぎているように感じています。プライバシーは確かに必要ですが、それは私たちの生活の一部でのことであり、それ以外は好むと好まざるに関わらず、他者とのコミュニケーションを行うのが健全な住環境であり、社会なのだと思います。

ところが、プライバシーやセキュリティ重視の考え方は、徐々に私たちの日常生活に浸透し、都市にもプライベートな空間が蔓延する状況を生みだしています。他者と関わるのは、時として煩わしいこともあります。それよりは、他者と関わらない環境にいるほうが、楽で居心地が良いのかもしれません。それでもやはり、他者を疑い、排除するのではなく、信用し、関わりを持つことから、社会は組み立てられるべきだと私は考えます。
プライバシーよりコミュニケーションを重視せよ
私たちは、都市と住宅を自由に行き来しながら生活しています。したがって私たちは、都市を直接変えることはできませんが、住宅を変えることで、都市とのバランスをとることはできます。現代の都市にはプライベートな空間が浸透しているのが現実です。それをただ嘆くのではなく、ポジティブに利用したほうがよいと思います。狭い住宅の中に、さらにプライベートな空間を取り込むよりは、家族内や家族と他人とのコミュニケーションの場のあり方をよく考えること。それが現代の住宅に求められているのだと思います。
例えばあるマンションの一住戸で提案したこと
最近、大手ディベロッパーによるファミリー向け分譲マンションの一住戸が、完成しました。分譲マンションは、その規模の大きさから、都市や社会に対する影響も大きいのですが、残念ながら、閉鎖化・密室化の流れが顕著です。その流れを少しでも変えたい、と常々思っています。
住戸平面図。LDKはテラス側もポーチ側
(共用廊下側)もガラス窓で開放されている。
長さ11mの机ギャラリー。
大型引戸で個室化も可能。
この住戸で特徴的なのは、豊かな緑地に面した長さ11mの机のある空間(「机ギャラリー」)です。安定した自然光が入る北側に配置された「机ギャラリー」は3つの個室とユーティリティを横断し、勉強や絵画、読書、インターネット、歯磨きや化粧など、今までは個室に閉じ込められがちだった家族の生き生きとした活動を繋ぎます。

そして、まるで図書館やカフェのように、一人であると同時に他の人の気配を感じるという、心地よい距離感をもったコミュニケーションを生み出します。従来のように、LDKだけで家族が関わり、個室が密室化されるのではなく、「机ギャラリー」を介して、個室どうしや個室とLDKを含めた、住戸全体で家族が関わりを持つことができる、より自由で開放的な3LDKを提案したのです。
住宅をもっと開放的に

昔ながらの日本の住宅は、障子や襖という非常に弱い仕切りによって、屋内外や部屋どうしが緩やかに分割されていました。プライバシーは相当低いですが、それでも生活は成り立っていました。これは推測ですが、昔は住宅にプライバシーが希薄な代わりに、都市側にプライベートな空間が用意されていたのだと思います。健全な社会には、パブリックとプライベート、明と暗のバランスが必ずあると思うからです。そういう視点から見ると、もしかしたら日本の現代社会は、西洋化・近代化を経て再び、昔ながらの日本の構図に戻ろうとしているのかもしれません。都市のプライベート化と住宅のパブリック化(開放)は、日本においては自然な成り行きなのかもしれないのです。

一口に開放といっても、窓を大きくしたり、間仕切りをなくしたりするだけではなく、例えば、SOHOというライフスタイルだって開放のひとつです。立地や建て主の考え方によって、様々な手法があるはずです。いずれにせよ、開放的な住宅が増えることは、社会全体に良い影響を与えるに違いない、と私は信じています。建て主の皆さん、住宅を建てるときは是非、今まで以上の開放性を目指すことをお勧めいたします。

住まいの話題[577]執筆者
■倉本 剛(くらもと ごう)/ 倉本剛建築設計事務所



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