Javascript is disabled.


アーキテクトルーム

■住まいの話題[635]:スペックと価値
画像をクリックすると大きなサイズで見ることができます。
住宅の敷地はいつも環境のよい条件であるとは限りません。

敷地面積が狭く建物も自ずとコンパクトになってしまう、周囲が建て込んでいて窓を開けても気持ちいいと感じられない、道路に面して窓を大きく開けるとプライバシーが保てない、などはよくあることです。

そんなとき、住宅を建てたいと考える多くの方が快適性と利便性を求めて最優先するのが間取りと設備で、少々せま苦しくて暗く感じても仕方がないと納得、妥協するケースもあるでしょう。

そのような、決してよいとはいえない条件を考慮しつつ、最良な回答を導き出すのが建築家の役割のひとつですが、以下に、私が考えている住環境を豊かで快適にする設計手法の中から、いくつかを例として挙げてみようと思います。
いっぺんに見渡せない
コンパクトな住宅の計画では、住宅を広く感じさせるためにすべて見渡せる大きなワンルームとして計画する手法が正解のひとつであると思います。しかしそれとは反対に、しばしば私は意図的にいっぺんに空間が見渡せない計画をすることがあります。床の段差を設けたり部屋を屈曲させたり、家具で視線を遮ったりしながら、いくつかのシーンを作ってゆく、そのような手法です。住宅内部を散策しながらさまざまなシーンが展開してゆくことで、その先に何があるか期待させ、広くない住宅に奥行きをもたらすと考えているからです。
光を追いかける

私はいつも視線の抜けを意識しています。それは水平方向でもいいし垂直方向でもいいのですが、敷地や建物の大きさ、距離感が感じられ、行き止まり感のない抜けをしつらえるのが大事だと思っています。そして、その視線の抜けた先には光のアイストップをおき、その光に誘われるように建物の中をめぐる動線を計画します。

光を追いかける:
階段をのぼるその先は青空が明るい
外を包み込む:
挿入された外のおかげで内部空間が明るく快適に

光を追いかけて建物の中をめぐること、光に視線をやり抜けを感じることで、コンパクトな住宅の中に距離感がもたらされると考えています。

外を包み込む
周囲が建て込んでいて、前面道路に面するようにしか有効な開口部を設けられないため、道路に対して大きな開口を設けても、プライバシーを気にして、結局ブラインドなどで閉じたままになるケースは多いと思います。そのような場合は、思い切って道路に対して開口を設けない計画とし、道路に面する開口部に代わって外部空間を内部に挿入します。そのことで、外観上は全く窓がないような佇まいでも、実はブラインドなどを必要としない、プライバシーの保たれた明るい室内が実現できます。開口のない外壁に閉ざされた内部が外部を包み込み、光を充満させたような雰囲気になります。
スペックを越えて
住宅を建てたいと考える多くの人にとって、限られた敷地面積とコストの中で快適さや利便性を求めれば、間取りと設備が重要なのが一般的だと思います。それらを満たすものを選べば、住み手として満足のゆくある程度の「買い物」ができたことになるでしょう。誰にでも受け入れられる住宅のスペック、それが盛り込まれていれば安心。そんな感覚ではないでしょうか。

しかし、例に挙げたようないくつかの手法を加えるだけで、一般化された住宅のスペックという価値を軽々と越えた、より豊かで快適な生活を獲得できるのではないか、そこに住宅の真の価値があるのではないかと考えています。そのような真の住宅の価値を、施主の方との共同作業で紡ぎだせたらと、いつも思っています。
住まいの話題[635]執筆者
■林 寛行(はやし ひろゆき)/ ハヤシラボラトリーズ



ページTOPへ