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アーキテクトルーム

■住まいの話題[646]:建築を着替える
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人は四季の移り変わりに応じて衣替えをします。より心地良く過ごせる服を求めたり、生地の厚みを考えたり、その日の気分に合う色柄を選んだりしています。

最近、服と同じように建築も着替えることが出来たら楽しいだろうに、と思うことがあります。よくよく考えてみれば、私達の生活空間はいつの間にか着せ替え可能な日用品で溢れています。着せ替え携帯、カメラ、メガネ、パソコンの壁紙、自転車のヘルメット、ベビーカーのタイヤホイル、補聴器、ヘッドセット、ギター、小型ゲーム機、そして建設現場で用いるレーザー墨出し器まで、その日の気分に合わせて自由にフェイスを選べる時代です。しかし建築本体に関しては、季節ごとに部屋のカーテンや家具配置を変えてみる程度の、いわゆる模様替えをするのが精一杯です。そのような部分的変更ではなく、もっと大胆かつ繊細に、住まい手の気分を反映して床・壁・天井や外壁などを数年サイクルで着替えてしまうことは出来ないものでしょうか。
着せ替えサイクル
大がかりな工事やコストのことを気にせずに、気軽に建築を着替える方法のヒントとして、日々開発の進むクロス(壁天井に張るシート状仕上材)や床仕上材、サイディング(外壁に張る板状仕上材)などの建材が考えられます。これらはもともと建物の耐用年数によって張替えることも考慮して作られたものですから、単純に発想するならば、その張替えサイクルを短く設定すれば建築を着替える感覚に近付けるはずです。もちろん、衣服のように年に何度も衣替えというのは難しいかも知れませんが、数年のサイクルで床・壁・天井を張り替えたり、外壁を張り替えたりすることは十分に可能です。さらには、窓ガラスのパターンフィルムや扉の面材、大きなダイニングテーブルのフェイスを張り替えたりすることも自由です。
外装を着替える 内装を着替える

そうすると例えば、木の家だったはずの友人宅が、いつの間にかコンクリートの家になっていてビックリ!とか、あるいは、以前遊びに行った時は床・壁・天井に木の温もりが感じられたのに、再び訪れたら全て石の空間に変わっていてビックリ!というようなことが起こるかもしれません。

現代人の皮膚感覚
建築の構造体や骨組みはそのままで、表層だけを人工素材で自由に着せ替えるというコンセプトは、本物志向の設計者には敬遠されがちです。木、石、土、竹、繊維、革など、天然素材の風合いに勝るものはないとする見方があるからです。しかし一方で、私達の日常生活を客観的に眺めてみると、人工的な工業製品以外の純天然品など、もう身のまわりには数えるほどしかないことに気付かされます。その理由は、単に本物志向の天然素材が高価であるという経済原理だけでなく、現代に生きる私達の皮膚感覚が無意識のうちにケミカルな質感を求めた結果であるとも言えるでしょう。

どのような素材に心地良さを感じるかということは、その時代の生活スタイルによっても左右されると思います。今は、天然と人工のちょうど中間に位置する建材が次々と開発され、住まいの隅々まで浸透している時代です。例えば、平安時代の襖紙に起源をもつクロスだけをみても多種多様であり、化学成分だけではなく天然の木や石、植物、珪藻土、和紙、漆、コルクなどを活かした環境対応型クロスや、炭を練り込んだ機能性クロス、さらには印刷技術を駆使して手描きの絵や写真から作る完全なオリジナルクロスまで、実に幅広い可能性があります。

住空間を考える際に問題となるのは、経済性や施工性だけを理由に安易にクロスやサイディングなどの仕上材に飛びついてしまうことです。そうではなくて、きちんと本物の天然素材の良さを理解した設計者が、今の時代の新しい皮膚感覚を素直に受け入れながら人工素材を捉え直すことが重要でしょう。

気軽な着せ替え建築の設計を考える意味が、そこにはあると思います。
住まいの話題[646]執筆者
■横田 歴男(よこた れお)/ 横田歴男建築設計事務所



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