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アーキテクトルーム

■住まいの話題[701]:世界と手をつなぎ、物語を語る家
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住宅のカタチ
建築設計はカタチを決定し、その決定を積み重ねる作業。鋭角なフォルム、優美な曲線、洗練された・・・そんなカタチも、もちろん選択肢の一つかもしれません。けれどそれ以前に、「そもそもカタチとは一体何か?」これがとても肝心なことだと考えています。そんな考えから、僕はカタチについて考え、それを発見し「観察」するために、大学での研究活動を住宅設計と平衡させています。カタチとは?
カタチの世界を観察する

近年、経済成長著しい中国。ここを研究の実地調査、フィールドワークをしてよく旅します。世界の不思議な住宅を訪ね・観察するためなのですが、ここで僕らが目に向けるものは、ちょっと変わっています。例えば、陝西省延安。中国で今も4000万人が暮らすと言われる、黄土高原の生土に洞穴を掘って住む「ヤオトン」という伝統的な住居が、ここでは、見渡す限り、川に沿う台地の斜面をうごめくように覆い連なっています。全長数キロメートルに及ぶヤオトンは壮大ですが、ひとつひとつは小さな洞穴の粒で、活き活きとした暮らしの風景となっています。

ここで僕が注目するのは、個々のアーチ状の洞穴の形状のユニークさもさることながら、とてもシンプルな「地面に穴を掘って住む家=ヤオトン」が、超速の都市化をむかえて、より内陸・農村から押し寄せる、膨大な人々を受け容れてしまう「寛容な様」です。そして、土に加えて、石やレンガからコンクリート・鉄・トタンを混ぜ、自由で健気で行き当たりばったりでありながら、地形の斜度・高度や密度、年代に秩序をうかがわせ、千年単位の暮らしをベースに、快適さを求めた現代都市生活をハイブリッドする「たくましさ」です。

それは一つの景観とも五万の部屋の集合ともとれるものです。ミクロにはアーチの形とその多様なバリエーションですが、大きくはひとつのシンボリックなまとまりをもって豊かな住環境を形成しています。その世界の歴史と一人の暮らしの物語を雄弁に語っているかのようです。それを僕はカタチだと理解しました。カタチは、言葉や文字ともならぶものとして世界を表すのかもしれません。

延安:増築が繰返された山懸式の横穴ヤオトン集落の風景 延安夜景:ヤオトン集落からの現代都市風景
住宅設計の素材
このヤオトンでの体験は非常に特殊なもの、辺境でのプライベートな感動です。けれど、考えてみればどんな場所にも時間は流れていて、歴史や背景になるものが存在します。古いものと、新しいものの関係があります。未来をそこに思い描くことができます。規範や慣習は家族やそこに暮らす人々の間・身の回りに無言のうちにあって、建物を物理的に成り立たせる素材と共にあるはずです。

僕は、これら自然に存在するものたちを「素材」と考え、それらを繋ぎ合せる関係性が「カタチ」だと考えています。街並みの中での存在感や、お施主さんのライフスタイル、都市・地域や自然への考え、それが建築によってしっかりとしたイメージとなって現れ、歴史とつながり、風景の一部になります。建築として、その場所に長く存在し、未来へ参加することになります。
自由と約束の先にある未来
今日、日本の多くの住宅は商品として存在しています。けれど、少し広い世界・歴史を見渡せば、限られた個人の資産で、大きな歴史や環境、風景などに参加し影響することのできる自由は特別なことではないかと思えます。その自由が、住宅設計の楽しさの元であり、個人が街並みに表れることができます。一方で自分の家族と、それを超えた人々や、出会うことの無いかもしれない世代のことを考え、受け継がれる風景を思うこと、これが現代の建築、都市や環境に対して大切ではないかと考えます。その先に、例えば僕は中国で見た風景を、未来として思い描いたりします。

僕は自由からはじまる住宅設計は、同時に大きな影響をもった存在で、未来を個人が約束するものだと信じています。
住まいの話題[701]執筆者
■稲垣 淳哉(いながき じゅんや)/ Eureka



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