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アーキテクトルーム

■住まいの話題[703]:建築材料に蓄積された時間と手触り
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一般に、住宅設計の打ち合わせでは間取りの検討に時間を割くことが多いのではないかと思いますが、例え同じ間取りであっても、使う建築材料によってその空間はまったく違う印象になります。写真で見ただけでは分からないような微妙な違いでも、実際の空間を五感で体験すればすぐにその違いが分かるのですが、設計の過程では見落とされてしまっていることも多いように思います。
材料の手触り

例えば、白い内装の部屋を考えてみましょう。真っ白なペンキで塗られた内装の部屋と、和紙貼りの部屋は、印象がずいぶんと異なるはずです。それは、和紙が真っ白ではなくてほのかに色味を帯びていることや、和紙はペンキの平滑な仕上がりと違って細かい凹凸がある、といった違いによるところが大きいと考えられます。

それでは、和紙貼りの部屋とビニールクロスの部屋ではどうでしょうか? ビニールクロスにも細かな凹凸があり、色味を帯びたものもあるので、写真で見た限りでは違いは分からないかもしれません。しかし、実際にその部屋に入った時の印象は、やはり和紙とビニールクロスとでは異なります。和紙はビニールとは違って表面に柔らかな毛羽立ちがあり、手触りが異なるからです。

人が空間を認識するうえで、視覚が9割を占めると言われていますし、設計者も目で見た印象を優先しがちになっている場合も多いのですが、空間の印象は、単に視覚的な認識だけでなく、堅い/柔らかい、つるつるしている/ざらざらしている、といった手触りが視覚的な情報と合わさって、五感の複雑な認識を総合して成り立っています。

カルロ・スカルパの作品1:
材料の秀逸な扱い方で自然な雰囲気を
醸し出すカステルヴェッキオ美術館
カルロ・スカルパの作品2:
材料の扱い方や樹木の配置で新旧の要素を
統合しているクェリーニ・スタンパーリア財団
材料に蓄積される時間
材料を上手く使った空間は、年月を経てより魅力的になります。それは、時を経て材料が色褪せ、艶が鈍くなっていく中で、「時間」がそこに蓄積されていき、住まい手が過ごした時間に添うように、馴染んでくるからだと思います。しかし、時を経てさらに美しく深みがでる空間がある一方で、単に汚れたように見えてしまう空間もあります。その違いはどこにあるのでしょうか?

材料を選ぶ時は、その経年変化を考慮して選ぶことが重要です。材料が違えば、その経年変化の仕方はそれぞれ異なるので、選択を誤ると、年月が経って全体的には色褪せてきているのに、ある材料だけはいつまでも変化せず新品のようにピカピカのままで、ちぐはぐな印象になってしまいます。

例えば、古い木造建築が美しいのは、木という単一の材料だけで全てが造られているので、全てが同じように経年変化をしているからだとも言えます。しかし、現代の住宅は一般的には様々な材料を組み合わせて造りますので、それぞれの材料の経年変化の違いを見越して、適切に配置することが重要になってきます。
手触りと時間を重ね合わせる
古い建物では、材料の「手触り」だったり、経年変化などによる「蓄積された時間」が、空間の印象の多くを占めることがあります。そのため、改修工事においては、特に慎重に材料を選ぶ必要があります。新しい材料を組み込むにあたっては、視覚だけでは判断できない要素や時間を相手にするため、繊細な感覚と慎重な判断が求められます。

イタリア人建築家のカルロ・スカルパ(1906~1978)は、数多くの改修工事を手掛け、今日世界の名作と呼ばれる建築を数多くつくりました。スカルパの建築作品は、どれも材料の扱い方が秀逸です。どの作品も、スカルパ独自の魅力的な雰囲気をもっているのですが、彼のことを知らない人であれば、新しく建築家がデザインしたと気付かないほど自然で、昔からそこにあったかのような雰囲気を醸し出しています。
住まいの話題[703]執筆者
■佐野 哲史(さの さとし)/ Eureka



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