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アーキテクトルーム

■住まいの話題[723]:総論・各論・コスト
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住宅のコスト
住宅のコストは、深く考えると難しい。ハウスメーカーや工務店、建売といった住宅産業の多くは価格体系をブラックボックスにすることによって利益を確保してきました。一方で、設計事務所の価格体系は工事と分離しているため比較的クリアではありますが、素材の扱い方や構造の形式、空間のテイストによって単価は大きく変化します。そこに作家性を見出しているクライアントは幸せかもしれませんが、仕様とコストパフォーマンスの関係は依然としてブラックボックスであることにかわりありません。

「住宅の価格は高すぎる」という宣言から始まる石山修武の著書『「秋葉原」感覚で住宅を考える』をご存知でしょうか。住宅の価格を住宅の全体性を表す記号としてとらえ、私たちとその記号の体系との関係について論じています。30坪程度の住宅がどれくらいの価格か、私たちは広告媒体からかなりの知識を得ています。そしてこの「価格の感覚」は住宅を建てたい人や買いたい人だけではなく、住宅を建てることを専門としている人たちの間にも根を下ろしています。

この価格の感覚を住み手と作り手ともに疑うことなく計画を進めた場合「このシステムキッチンは高いので諦めましょう。けれどもあまった予算でリビングに床暖房は設置できそうです。おばあちゃんの部屋にも床暖房を入れるためには、家全体の窓を安いシングルガラスにして予算を確保しましょうか、云々」のように各論に各論を重ね、せっかく床暖房を入れたのにもかかわらず熱的に不利になるシングルガラスを多用し、最終的に何を目指していたのか分からない住宅になると指摘しており、そうならないためにも各論の前に総論をふまえた上で、家作りの全体を体系づける価格の問題に切り込むことが重要であると説いています。
建築の仕様と温度変化の関係 建築の形状と風の流れの関係
家作りの思想
家作りの「総論」から「各論」を導く思想で設計された住宅に、私の師匠である難波和彦が展開する『箱の家』シリーズがあります。「箱の家」は価格のコストパフォーマンスを最大にした上で「建築の四層構造」と呼ばれる理論を用い、建築の総論から各論にフィードバックすることによって進化を続ける住宅です。

建築の四層構造とは、建築を「物理性(材料、構法、構造学)」「エネルギー性(環境工学)」「機能性(計画学)」「記号性(歴史、意匠学)」の4つの層に分け、それぞれに「建築の様相(視点)」「デザインの条件」「問題解決のための手段」「歴史」「サステイナブルデザインのプログラム」という視点から建築の問題を提示するマトリクスです。難波はこのマトリクスを利用して建築の「四層の要素すべてを関係づける」ことが現代の建築デザインの条件であると述べており、私もこの考え方を踏襲しています。

建築を総論から考えた場合、建築の価格は境界条件として存在します。少々極端な例ですが、予算が500万円の場合、できることは限られますが、施工の方式をセルフビルドにすることによって、浮いた人件費を断熱材に投資することも可能でしょう。建築を作る方法が限定された場合、実現できる空間や表現にも制約がありますが、その中でも豊かな暮らしができる形式を見つけることがデザインになります。
環境の時代に向けて
これからの時代はエネルギーの問題が重要になります。ガラスで覆われた空間を実現するために大量の設備機器を設けるよりも、ガラスで覆いつつも空間的な工夫によってエネルギーの負荷を減らす方が長い目で見るとコストを削減することに繋がります。シミュレーション技術も身近になりつつあり、物理の原則と真摯に向き合った空間を作りやすい状況になりました。総論と各論、コストのバランスを見直す時期なのかもしれません。
住まいの話題[723]執筆者
■中川 純(なかがわ じゅん)/ レビ設計室



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