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アーキテクトルーム

■住まいの話題[732]:その場所に住むということ
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建物には、そこにしかない独特の空気感といったものが存在します。その要因のひとつとして、建っている場所の気候・地形や景色などといった一般的に風土と呼ばれるものがあります。

先日久々に旅に出て、行く先々でさまざまな建物をみてまわりましたが、各々の場所で独特の空気感を体感することができました。
その場がもつ空気感
ギリシャには、早くから文明が発達し、紀元前に造られた彫刻や建物が残る遺跡が至るところに点在しています。そういった建物のほとんどが石でできています。実際にその光景を目の当たりにするまでは、こんなにも重く加工しにくい石をなぜ素材として選んだのかずっと不思議に思っていました。しかしながら、その建物の建っている場所やまわりの風景を見渡すと、石以外材料になりそうなものがほとんどないと感じられる景色が広がっていました。

権力の象徴としての威厳さと神聖な場所としての崇高さを醸し出すために、ほかの素材ではなく敢えて石を選んだのだと今まで勝手に思い込んでいましたが、その思いは間違っていました。そう思えてからは、建物のもつ独特な空気感を素直に感じ取れるようになりました。

また、場所が変われば石の使い方も変わり、スイスでは石積みの壁が多く見られ、山岳地域では木造でつくった屋根の上に薄い石を敷き詰めている家屋も多く見られました。そういった建物は個々にみるとかたちや大きさも様々ですが、まとまったひとつの風景として眺めると全く違和感がなく、山々やまわりの緑によく馴染んでおり、情景あふれる景色が広がっていました。
ギリシャのデルフィ遺跡 スイスの山岳地域
時の流れとともに
こういった場所を巡っていくと、各々の地域でしか獲れない食材を使ってつくる郷土料理と一緒で、建物もまた、ヨーロッパのように石やレンガが多く使われたり、日本のように木が多く使われたりと、その地域・場所でしか得られない素材によってかたち造られてきたことがよく分かります。

しかしながら、時間の経過と共に、最近は必ずしもそういった状況になっていないのも明らかです。ものの流通機構は著しく発達し、どの場所に居ても手に入らないものはほとんど無いというような状況です。こういった状況では建物にも、良くも悪くも大きく影響します。

特に日本では、建設スピードが格段にはやくなり、低価格で高品質なものを造れるようになった反面、画一的な建物はもちろんのこと、日本の風土といったものにそぐわない建物が多く見受けられるようになってきました。
その場所に住むということ
建物のなかで住宅に限っていえば、「ある場所に建てる」ということは、まず住む場所を決めなければなりません。それと同時に、その場所に住み続けるという確信というか覚悟みたいなものが必要になってくると思います。そういった覚悟をゆるぎないものにするためにも、その場所に建つ住宅にしかない独特の空気感が感じられたほうがより良いだろうと考えます。

そのためにはまず、その場所の気候や地形・景色といった風土について時間をかけて知ることからはじめ、その風土を生かす工夫を住宅のなかに取り込むと同時に、常に感じられることが大切だと思います。

こういった考えが様々な地域・場所で必ずしも成立するとは限りませんが、これからはもっと重要性が増してくると思いますし、大切にしていきたいと思っています。
住まいの話題[732]執筆者
■高橋 正嘉(たかはし まさよし)/ ハイランドデザイン一級建築士事務所



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